連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(中)災害対応 意識差埋める努力いま
  • 印刷

 「住民がせめて一日分の食料を持参すべきだった」

 名古屋市西区で自主防災組織の代表を務める桜井祐三さん(76)の自戒だ。

 昨年九月の東海豪雨。十二日、前夜から降り続いた雨で、地域のほぼ全域が腰の高さまで冠水。中小田井小学校に避難した約三千人が孤立した。

 「食料はまだか」。同校に詰めた市職員、富安孝典さん(25)への問いかけはひっきりなしだった。その度に無線で区対策本部に尋ねた。「搬入のめどがたっていないのは当然、分かっていた。しかし、聞かざるを得ない雰囲気だった」

 その間、区の対応は混乱を極めた。道路が渋滞し、三千人分の物資は職員百人が地下鉄で運搬。水上の約一・五キロは市立公園の池から持ち込んだ手こぎボートが頼りだった。

 避難勧告が出たのは同日午前一時十分。朝食が到着したのは午後四時を回っていた。同校には乾パン二百五十食を備蓄していただけ。阪神・淡路大震災後、市は三日間の備蓄を住民に呼びかけていたが、桜井さんも「知らなかった」。

 食料の確保、伝わらなかった避難勧告…。豪雨を教訓に名古屋市は防災計画の見直しを始めた。

    ◆

 神戸市長田区の長田小学校。十三日、とんど焼きに続き、防災訓練が始まった。消火器で残り火を消し、子どもたちのゲーム…。

 同校区は一九九七年に「防災福祉コミュニティ」を結成。独り暮らしの高齢者への訪問活動などに力を入れる。だが、コミュニティの川福克己本部長は徐々に住民の防災意識が薄れているのが気になる。「イベントと連携させないと訓練や研修に参加者が集まらない」

    ◆

 二〇〇〇年版の防災白書は「行政対応の限界」を初めて明言した。住民との連携の必要性も強調する。それは阪神大震災の教訓でもあった。生き埋めになった多数の住民、約四万人の負傷者、二百五十件を超えた火災の発生…。

 震災後、兵庫県を含む大半の自治体は非常食に関して「住民による三日間の備蓄」を基本に定めた。だが、日本世論調査会の調査では住民の半数以上が「備蓄していない」、四分の一は「震災で備蓄したが、その後は点検していない」。一方、五割以上は「行政の防災対策は不十分」とも。

 「自己責任」を打ち出す行政と、市民とのかい離はさまざまな場面に現れる。

 既存住宅の耐震補強。兵庫県内では昨年秋から各市町で無料の耐震診断制度がスタートした。だが、ある市の担当者は制度に懐疑的だ。「診断の申請者と話しても、補強を前提に考えている人は少ない。追跡調査が必要だろう」。神戸市では市などが地盤のデータベースを作成して一般に公開しているが、利用は一年二カ月で、十一件しかない。

 「行政は自己責任を強調するが、それならどこまでが行政の役割か、を明らかにすべき」。神戸大学都市安全研究センター、室崎益輝教授は訴える。

 「備蓄でも、住宅の耐震化でも、住民は出された宿題ができていない。行政は必要性を説明し、できるまで啓発しなければ」

 災害は突然襲ってくる。防災は、待ったなしだ。

2001/1/16
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 50%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 34℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ