失われた「地域」 再建支援法の実現には評価
都市を襲った大震災は、既存のシステムでは対応できない生活復興の課題を浮き彫りにした。
中でも、仮設住宅で問題となったのが、死後何カ月も発見されなかった例もある「孤独死」。約五年で二百三十人を超え、コミュニティーづくりや高齢者らの見守りが急務となった。復興住宅でも引き続き、最大の課題の一つとなっている。
県は、生活復興相談員の配置など、支援策を打ち出してきたが、行政施策には限界も見える。
復興基金で設立した「こころのケアセンター」は五年間で閉じられ、研究機関に移行。「孤独死」の中で目立ったアルコール依存症問題なども今なお、深刻だ。
生活再建の分野で、震災の教訓が実を結んだのが、一九九八年五月に成立した「被災者生活再建支援法」だった。自然災害で住宅が全壊した被災者に最高百万円を支給する内容。生活、住宅再建への支援を盛り込んだ「総合的国民安心システム」を九七年に提唱していた貝原知事は、同法成立の際、「被災地からの提案が新しい制度創設に結実し、感慨無量」と語った。
同法の付帯決議を受け、兵庫県でも復興基金が被災者向けの「自立支援金」制度を創設。従来の枠を超えた「現金給付」が評価される一方、被災者には「この程度の額では…」との不満も残る。支援金の支給条件を巡っては訴訟にも発展し、被災者側が一審で勝訴。基金側が控訴し、法廷での争いが続いている。
また、兵庫県外に避難した被災者への支援については、市民団体や研究者らが、県などの対応の遅れを指摘。各地で発生したその後の大規模災害でも、問題となっている。
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神戸・ポートアイランド2期地区。今年三月中旬、神戸を訪れた関西経済連合会の視察団は、広大な更地を目の当たりに率直な感想を漏らした。
「まだこれからだな」
震災後の混乱の中で、兵庫県は被災した自治体や経済界に呼びかけ、十年を期間とする「産業復興計画」をまとめた。「経済復興を単なる復旧にとどめてはならない」。貝原知事の意向を受け、既存産業の高度化や企業誘致を図りながら、被災地を「次世代型産業のモデル地域に」が目標に掲げられた。
その舞台に設定されたのが同地区。県は税制優遇や規制緩和を行う経済特区「エンタープライズゾーン」の指定を求めたが、国は「前例がない」との姿勢を崩さなかった。以来、経済復興策は「既存の民活法などを活用し、一つ一つのプロジェクトを進める従来型の手法に戻らざるを得なかった」と関係者はいう。
「復興の切り札」ともいわれた経済特区構想。次善の策として県は神戸市と連動し、同地区などへの進出企業に、独自の税制優遇などを施す地方版経済特区を創設。現在、外資系の誘致などに成果を見せつつあるが、復興の遅れは否めない。
足元では景気低迷を背景に、小売商業など地域密着型の業界を中心に復興が十分進まず、規模や業種間格差が拡大。雇用も深刻さが増し、産業復興計画も修正を迫られているのが実情だ。
一方、貝原県政が重点を置く新産業育成の分野で、成果も見えつつある。産官学でつくる新産業創造研究機構や阪神・淡路産業復興推進機構の支援を受け、新分野に進出する中小企業も目立ってきた。
「行政依存でなく、自助自立で復興を目指す」と大庭浩・神戸商工会議所会頭は力説する。産業復興を行政から民間主導に転換し、復興の遅れをいかに取り戻すのか。貝原県政が残した課題といえる。
2001/6/13