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(下)公務員削減 命守る責務果たせぬ恐れ
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 「手口が巧妙。想定外だった」。兵庫県姫路市の森沢均建築指導課長はそう釈明した。

 昨年十一月、市内のホテルで浮上した耐震強度偽装。震度6以上の地震で壁や柱が壊れる恐れがあることが分かった。同市は二〇〇二年の建築確認審査時に加え、一連の偽装問題発覚後の再調査でも見抜けなかった。

 建築確認は、もともと自治体だけが担っていた。転機は阪神・淡路大震災だ。手抜き工事が拡大させたとみられる被害が多発。当時、建築確認を最終判断する職員「建築主事」の数に対し、審査量が膨大で「施工段階の監視にまで手が回らない」との指摘があった。

 建築確認は民間確認検査機関に任せ、自治体は監視に集中すべき-。議論が旧建設省内で高まった。一九九八年に建築基準法が改正され、民間による審査が認められた。

 今、同市が審査するのは市内の新改築のわずか約4%。建築指導課職員は過去五年で二十一人から十九人に減少する一方、施工段階のパトロール強化や民間機関の監督など、法改正前より全体の業務量は増えたという。

 森沢課長は「職員に建築確認の実務経験が不足している点は否めない。だが、職員体制のスリム化が進む中、建築構造の知識に特化した専門職を抱えるのも難しい」と苦しい胸の内を明かす。

 神戸大の塩崎賢明教授(住宅政策)は「民間の営利追求、自治体の審査体制の弱体化が、偽装見逃しを生んだ」とみる。

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 財政難で公務員削減が加速する。「安全・安心」分野も聖域ではない。

 偽装問題を受け、国土交通省は国、自治体の民間確認検査機関への監視強化を検討する。だが、神戸市の建築主事の数は民間の参入以降、十一人から六人にまで減少。兵庫県でも、建築関係職員約二百五十人のうち八十人が団塊の世代で、今後五年間に退職する見通し。ともに「後進の育成が課題」と頭を悩ませる。

 相生市は土木技術系の職員が減り、「昨年九月の台風の際、土のう作りや道路の維持管理に苦労した」。芦屋市でも昨年四月から、四人いた常勤の防災対策課職員が一人減り、消防職員が交代で一部業務の穴を埋める。

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 国で唯一の火災原因や災害対応の研究機関、独立行政法人・消防研究所(東京)。尼崎JR脱線事故、〇四年の台風23号の際も、研究員が現場でレスキュー隊員に救助方法を助言した。政府は今年三月、研究所を行革で廃止。機能の一部は消防庁に吸収させるが、約五十人の職員は半減する。

 削減に反対した室崎益輝・同研究所理事長は神戸大教授時代に震災を経験し、「専門家として地震への備えが不十分なことを強く警告すべきだった」との無念の思いがある。「政治、行政の最低限の責務は住民の命を守ること。それに直結する職員が削られ、災害時に危ぶまれる状況にあることを、住民側も理解してほしい」

 自然災害は避けられない。被害を広げるか、抑えるか。私たちは今、その岐路に立つ。

(石崎勝伸、田中陽一)

=おわり=

2006/1/19
 

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