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(中)三位一体 施策選択に住民が声を
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 「もう、整備は無理だろう」。昨年十一月、兵庫県相生市の土井正三・危機管理担当主幹は、「同報系防災行政無線」の新年度予算要求を断念した。

 災害時、公共施設に備えたスピーカーや各家庭の受信機で住民に避難情報などを一斉に伝える同報系無線。同市の臨海部では、二〇〇四年に相次いだ台風で計八百棟以上が浸水した。市は広報車で警戒を呼び掛けたが、風雨が激しく、住民から「聞こえなかった」との苦情が出た。南海地震では、二メートル近い津波の襲来が想定される。

 無線の必要性は明白だったが、大きな壁があった。見積もった事業費は約四億二千万円。同市は基幹産業の造船業の低迷による税収激減に加え、国からの地方交付税が〇四、〇五年度だけで計約六億円削減された。

 国の三位一体改革。地方への補助金を減らす、税源を移譲する、地方交付税を見直す。先行した交付税削減に続き、昨年十二月、総額で年間六千五百四十億円の補助金削減が確定。一自治体につき上限五千万円の同報系無線整備への補助金もなくなった。その分、税源が国税から地方税へと移譲され、消防庁は「防災施策でも地方の自由裁量度が高まる」とする。

 だが、土井主幹は「財政が厳しい中、一般財源化されれば、市民生活に直結する福祉、教育施策に使わざるを得ないだろう」。次善策として、災害情報を携帯電話などにメールで配信する新規事業を検討。兵庫県内市町の同報系無線整備率は、全国の約70%を大幅に下回る45%にとどまる。

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 三位一体改革は終わったわけではない。地方の財源不足を補ってきた地方交付税は、財務省などが「甘えの温床」と指摘しており、今後、大幅削減も予想される。

 税源移譲されても納税者自体が少なく、交付税を頼みの綱とする自治体の危機感は大きい。神戸新聞社が行った県内の合併十一市五町へのアンケート調査では、全市町が三位一体改革の影響について、「財源確保が難しく、防災施策の削減が避けられない」と答えた。

 うち、兵庫県神崎郡神河町の足立理秋町長は、〇四年の新潟県中越地震で多くの集落が孤立化した被災地の光景が、谷筋の多い同町と重なって見えた。山崎断層地震では、約三千八百世帯の六割の家屋が全半壊すると想定される。「孤立対策として、迂回路(うかいろ)の整備などを進めたいが、毎年決まって支出する経常費でさえ絞るだけ絞りきった状態」と、苦しい胸の内を語る。

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 人と防災未来センターの河田恵昭センター長は「防災施策が単年度の予算に左右されてはならない。長期的な数値目標を立てて断行すべきだ」と指摘。「そのためには住民がもっと行政に声を上げなければ。財政が厳しいなら、住民もある程度の負担を受け入れる覚悟がいる。『安全・安心』がただで手に入るという意識を改めてほしい」

 国から地方へ。命にかかわる施策が身近な行政に委ねられる改革。何を求め、何を削るのか。課題は私たち一人一人に突き付けられている。

2006/1/18
 

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