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(上)合併 現場レベルの判断が鍵
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 一月四日、兵庫県南あわじ市の中央庁舎に一つの課が引っ越してきた。総務部防災課。六人の職員が机に向かう。課の位置を示す看板はまだない。

 同市は一年前、旧三原郡四町が合併して誕生した。市長が執務する中央庁舎を旧三原町に置き、四町の役場はそのまま分庁舎として残している。

 防災部門は当初、南海地震で五メートル以上の津波に襲われる旧南淡町の分庁舎に置いていた。それが裏目に出た。

 昨年九月、台風14号が列島各地で猛威をふるった。同市は南淡庁舎に災害対策本部を設置、本部長となる市長は、中央庁舎から車で三十分かけて本部に移動した。

 南海地震の津波第一波到達は、地震から五十分後。その時、南淡庁舎に移動する余裕はあるのか-。結局、昨年末の臨時市会で行政組織条例を改正し、防災部門を中央庁舎に移した。

 「防災課も三十以上ある『課』の一つ。どの庁舎に置くかまで、突っ込んだ議論はしていなかった」。合併に携わった市幹部は、協議の中で「防災」に力点が置かれなかったことを認める。

    ◆

 人員面で合併の効果があった自治体もある。兵庫県内で一九九九年以降に合併した十一市五町のうち、九市一町が防災専任職員を置いていた。

 「仕事に専念でき、新たな施策も展開できる」と専任職員ら。以前は交通安全から防犯、税事務まで一人で三、四種類の仕事を抱えていた。

 しかし、かつての町役場が分庁舎や支所となった地域には不安もある。

 六町が合併した丹波市。本庁と分庁舎が一つ、支所が四つある。各支所の職員は五十人前後と合併前の半数にまで減った。一方で面積は県内で五番目に広い五百平方キロメートル。災害時には分庁舎と各支所に現地対策本部を設け、本庁からの応援職員を得て対応に当たる。

 「それだけに、現場レベルでの判断が重要になるんですが…」。防災を担当する矢野晴久課長の表情は浮かない。

 昨年九月、同市は支所のトップらを集め、水害を想定した図上訓練を行った。本庁からある支所長へ「○○地区でがけ崩れが発生」と書かれた紙が渡った。間もなく戻ってきた紙には、こう記されていた。

 「どうすればよいでしょうか」

 丹波市に限らず、合併市町の多くが支所などを災害対応の拠点と位置付け、「現地解決型」を目指す。

 人と防災未来センターの福留邦洋専任研究員は「本庁との役割分担も含め、支所がどこまで担えるのか整理すべきだろう」と指摘する。

 警察による被害の一報が、本庁ではなく支所に入るのか。二十四時間、受け付けられるのか。支所が拠点になることを住民自身が理解しているのか-。合併後の防災体制を、いつまでも手探り状態にしておくわけにはいかない。

    ◆

 阪神・淡路大震災から丸十一年。地方自治体では合併、三位一体改革、公務員削減と改革が加速する。一方で、教訓として充実が叫ばれた行政の防災体制にも、ほころびが見え始めている。改革の影響を兵庫に探った。

(石崎勝伸、田中陽一)

2006/1/17
 

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