災害見つめ続け 現場主義、被災者目線忘れず
復興四半世紀。阪神・淡路大震災から25年になろうとしている。戦後初の都市直下型地震に見舞われた私たちは「災後」の社会を手探りで歩んできた。そしてまた必ず起きる災害に、どう立ち向かうのか。問われているのは、「災前」の備えだ。「災後」の歩みを「災前」の社会に根付かせられているか。すなわち「災間(さいかん)」をどう生きているか。震災前からこの地で災害と向き合い、復興の最前線に立ってきた防災学者の室崎益輝(よしてる)・兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長(75)とともに見つめ直したい。まずは室崎自身の歩みをひもとき、序章とする。(金 旻革、竹本拓也)
胸に刻む言葉がある。
「震度7の防災計画を作ってくれていれば、父が亡くなることはなかった」
1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災から1年もたたないころ、震災で父親を失った遺族から1本の電話を受け取った。震災前に策定された神戸市の地域防災計画は、震度7の揺れを想定していなかった。その計画づくりに携わったのが室崎だった。
「結果責任はあります」。室崎は頭を下げた。わずかなやりとりだったが、想定の甘さが人の生死を左右することを思い知った。自責の念は今もつきまとう。どう向き合うのか。答えを現場に求め、被災者とともに歩む道を選んできた。
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「現場主義」と「市民目線」。その後の室崎の活動から切り離すことのできないキーワードだ。
今から1カ月前の9月1日、防災の日の朝。NHK「日曜討論」のスタジオに、室崎の姿があった。
4日前には佐賀県を中心に九州北部で猛烈な雨が降っていた。病院が孤立し、住宅6千棟以上が浸水した。
相次ぐ自然災害からどう命を守るのか。気象や避難、行政…、居並ぶ専門家を前に、まとめ役を託された室崎。コミュニティーの強化や避難所環境の重要性など「困っている人を救う」ために必要な論点を、短い言葉で紡いでいった。
さらに半月前、お盆明けの8月中旬。室崎は、東日本大震災で大津波が襲った岩手県北部の野田村にいた。リアス式海岸と北上山地に挟まれた人口約4千人の村への訪問は10回近くになる。
村長をはじめ約30人の村職員が真剣な表情で室崎の話に聞き入った。
「災害は地域社会の課題を教える。少子高齢社会での復興を考えてほしい」
野田村は津波で住民28人が亡くなった。復興事業では3層の防潮堤を整備する一方、土地かさ上げ工事は行わなかったため、被災者はスムーズに生活再建へ向かうことができた。
職員たちには早期復興への道筋を付けた自負があった。ただ、被災しなかった山間部には限界集落が点在する。室崎の言葉は、復興が被災地だけでなく、地域全体を見渡す必要性があることを指摘していた。
「痛いところを突かれました」。職員は新たな宿題を与えられたような、引き締まった面持ちで語った。
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全国津々浦々、海外にも足しげく通う。講演も市民向けとあらば数人の会合でも駆け付け、多い年は100回を超える。「災害の備えには、市民に直接語り掛けることが大切。そのためにできることをする」
阪神・淡路以降、日本は災害多発時代に突入した。防災が社会の主要テーマになりつつある中、復旧・復興から被災地支援まで、あらゆる局面の先頭に室崎はいた。被災地へ。「被災地の課題は、被災者の声をじかに聞かなければ見えない」。信念であり、原点でもある。
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