阪神・淡路大震災は、さまざまな場面で新しい取り組みを生み、それまで見えなかった課題を浮き彫りにした。「支援ボランティアへの支援」「外国人との共生」「トイレ環境の改善」-。それぞれのテーマで、室崎益輝(よしてる)・兵庫県立大大学院減災復興政策研究科長(75)▽吉富志津代・多言語センターFACIL(ファシル)理事長▽加藤篤・日本トイレ研究所代表理事(47)-の3人に、今、なすべきことを聞いた。共通する思いは「震災の教訓は十分に根付いていない」との危機感だ。(金 旻革、竹本拓也)
■携帯トイレ備蓄命を守る鍵/排せつ回数把握も「防災」
阪神・淡路大震災では、停電と断水によって水洗トイレが汚物であふれかえった。「トイレパニック」という言葉が生まれるほどの混乱。トイレに行く回数を減らそうと水分を控える高齢者らが相次ぎ、心筋梗塞などによる「災害関連死」の一因ともなった。災害時のトイレ対策に20年以上取り組んできた加藤さんは「トイレは命を守る鍵。家庭では水や食料とセットで、携帯トイレを備蓄して」と呼び掛ける。
加藤さんは1997年、阪神・淡路でもトイレ整備をボランティアで行った前身の団体に参加。2009年にNPO法人「日本トイレ研究所」を設立した。新潟県中越地震や西日本豪雨などの被災地でトイレの利用実態を調べ、自治体や企業、住民に対策の必要性を訴えてきた。
同研究所によると、東日本大震災や熊本地震では、発災後6時間以内にトイレに行きたくなった人が全体の7割に上ったという。阪神・淡路では9割超。だが、排せつは防災テーマとして話題に上りにくく「水や食料よりも真っ先にトイレが必要という事実が、阪神・淡路から24年たった今も直視されない」と嘆く。
家屋の被害が軽く、自宅で過ごすことを決断したとしても、トイレが使えなければ自宅にとどまれない。穴を掘る方法もあるが、「不衛生な処理は感染症の原因となる」と警告する。
最も手軽な対策は携帯トイレの備蓄だ。在宅避難では、1人が1日5回トイレに行くと想定し、家族の人数を掛けた個数が目安で、少なくとも7日分は必要という。「自分や家族の排せつ回数を把握し、日常で実際に使ってみるのも有効」とアドバイスする。
「トイレは身体の一部」。東日本大震災の被災地で、ともに衛生的なトイレづくりに取り組んだ故黒田裕子さんの言葉を支えに活動する。機能性の高い仮設トイレの普及も進むが、「災害時にトイレ対策を担う人材育成が重要」とする。12年から年2回続ける「災害時トイレ衛生管理講習会」は延べ500人が受講。「どんな時でも、全ての人が安心して排せつできるトイレ環境の構築」を目指す。
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