東日本を縦断し、71河川で堤防が決壊するなど甚大な被害が出た台風19号災害を受け、兵庫県が同程度の雨が県内六つの河川流域に降ったとの想定でシミュレーション(試算)したところ、武庫川、市川、千種川で氾濫の恐れがあることが分かった。さらに現在、数十年単位で進めているハード面での治水計画が完了したとしても氾濫する可能性があるという。県は計画の前倒しや既存ダムの活用など新たな対策の検討を始めた。
10月の台風19号では、千曲川や阿武隈川など71河川の計140カ所で堤防が決壊し、その9割は地元の県が管理する中小河川だった。浸水や家屋の全半壊などが各地で相次ぎ、死者・行方不明者は100人近くに上った。兵庫県もこうした状況を重視し「いつ同じような雨が降るか分からない」と判断、実際に降った雨量でより現実的な対策を検討しようとシミュレーションの実施を決めた。
同県内には国と県管理の河川が計685本あるが、今回対象としたのは武庫川、市川、千種川、明石川、住吉川、洲本川の6河川。加古川や円山川など下流域が国直轄管理の川を除き、地域ごとに主だった県管理の川を選んだ。
シミュレーションには、台風19号で氾濫した河川のうち流域の地域特性などが兵庫に置き換えやすい多摩川(東京都など)のケースを使った。台風が関東を襲った10月12日前後で24時間雨量が最も多かった時間帯を選び、山地部は625ミリ、中間部は407ミリ、平野部が256ミリと定めた。
単に24時間雨量で比較するのではなく、1時間ごとに記録された台風時の雨量を、コンピューター上に再現した6河川の流域に降らせ、地面に染み込む量や支流から流れ込む量なども踏まえてそれぞれの流量を詳しく試算。続いて、上流から河口まで約200メートルごとに県が把握している「安全に流すことができる水量」と比較した。
その結果、比較的大規模な武庫川、市川、千種川では上流から下流までかなりの部分で氾濫する恐れがあることが判明。現在、2030年度から41年度の完了を目指して各流域で進める浸食防止の護岸工事や川底の掘削などの治水計画が予定通りに終わったとしても、氾濫する恐れがあるとの試算が出たという。一方、明石川、住吉川、洲本川の3河川では、明石川の一部で氾濫の恐れはあるが、進行中の治水計画が完了すれば、ほぼ安全性が担保できるとされた。
県総合治水課の勝野真課長は「気候変動が顕在化してきており、台風19号級の雨が降れば兵庫でも災害が起きる可能性があると裏付けられた。現在の計画前倒しなどとともに、河川監視カメラを増設するなど避難行動を後押しする取り組みも進めたい」としている。(霍見真一郎)
