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本格的なラジコンサーキット。長さの違う2面を使い分け、大会が開催された=西脇市大野
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本格的なラジコンサーキット。長さの違う2面を使い分け、大会が開催された=西脇市大野
(1)レース当日、最終調整をする小寺一郎さん
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(1)レース当日、最終調整をする小寺一郎さん
(2)モーターの回転数や車体重量をチェックする参加者
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(2)モーターの回転数や車体重量をチェックする参加者
(3)激しいレースを繰り広げた決勝
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(3)激しいレースを繰り広げた決勝
(4)パトカーからの追跡をかわす「族車」のラジコン
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(4)パトカーからの追跡をかわす「族車」のラジコン

 レース開始を告げるシグナル音とともに小さなマシンが駆け抜けていく。兵庫県西脇市のラジコンショップ「ビートップス」(同市大野)では毎月、ラジコンカーの愛好家によるレースが開催されている。10分の1スケールの車がコンマ数秒のタイムを競い合う。老いも若きも少年に戻り、気分は「サーキットの狼」。熱き戦いに密着した。(伊田雄馬)

■大会前日から調整

 ビートップスでは毎月、店の敷地内にあるコースで大会を開き、関西一円の愛好家が集う。7月31日に開かれた「フタバカップ」はメーカーが協賛する大規模な大会で、遠くは九州から約30人が参加した。

 勝負は前日から始まっている。30日昼、コースにはほとんどの参加者が集まり、試走を繰り返して愛機の最終調整に精を出していた。姫路市の小寺一郎さん(52)=写真(1)=もその一人。当日は酷暑で路面が熱され、タイヤへのダメージが大きくなると予想し、パーツを組み替えていた。

 小寺さんは20代でラジコンにのめり込み、結婚を機に離れていたという。新型コロナ禍を機にラジコン熱が再燃し、2年ほど前からレースに参加。「当時より調整できる箇所が増え、電池の性能も大幅に向上している」と目を見張る。

 一方、性能が「向上しすぎた」と語るのは、ラジコンの輸入代理店に勤務する城戸和生さん(70)。ラジコン人口は全盛期に比べ大幅に減少しているといい、「マニアック化しすぎたんやね。初心者が始めにくい世界になってしまった。時代はeスポーツやろ」と自嘲気味に言った。

■機器一式で20万円

 ラジコンカーは大きく2種類。自然の道やでこぼこ道を走る「オフロードカー」と、舗装路を走る「オンロードカー」に分かれる。競技性が高いオンロードカーにはエンジンを積んだものもあるが、愛好者は圧倒的にモーターの方が多い。

 大会に使われるマシンは車体だけで7万~8万円。別売りのプロポ(操縦機)も同程度の価格で、さらにモーターやアンプなどの部品も必要。新たに機器を買いそろえると、20万円ほどかかる。

 「それでもストレス発散にはもってこい。大会では、逆にストレスをためちゃう人もいるけどね」

 ベンチで隣に座った男性が問わず語りを始めた。男性は一気に説明すると、満足したようにふらりと去って行った。

■車検終えスタート

 大会は午前10時から始まる。遠方からの参加者は近くに宿を取り、午前6時ごろから試走を繰り返していた。

 ラジコン大会はほとんどが主催者独自のルールに基づいて開かれる。ビートップスではモーターの回転数などに応じて7部門を設け、予選と決勝で争う。

 予選はタイムトライアル。参加者は時間を空けてスタートし、自らの限界に挑む。車検=写真(2)=を終えたマシンがスタート位置に付き、シグナルを待つ。「スタート10秒前…5…」。直後、けたたましい電子音が響く。いよいよ勝負の火ぶたが切って落とされた。

■コーナー横転注意

 予選は淡々と進む。モーターの最高回転数や車体の重量で部門が分かれ、スピードが出るクラスではより高いレベルの操縦技術が必要となる。最も回転数が高い「スポーツクラス」では、ターボの搭載が許されている。直線に差しかかると、ギアを上げたように急加速する。その分、コーナーでは注意が必要だ=写真(3)=。

 遠心力に車体が耐えきれず、外側に横転する「ハイサイド」がしばしば発生する。この日も曲がりきれずに横転する車が多く見られた。車体が軽いラジコンならではの光景だ。

 「ハイサイドが起きないようにコースに適したセッティングを試走で見つけなければいけない。ベテランほど、その引き出しが多い」。いつの間にか戻って来た先ほどの男性が、再び説明してくれた。

■族車、痛車も登場

 暴走族風の改造車、いわゆる「族車(ぞくしゃ)」=写真(4)=をパトカーが追跡している。3人の美女が窓に腰かけ、棒状の物や日の丸を振りかざしている。誰がどう見ても、道路交通法違反は明らかだ。

 パトカーはじりじりと迫り、直線でついに並んだ。捕物か-。と思いきや、停車すら求めず追い抜いていった。

 今大会で、初めて設けられた部門「街道レーサー」の一場面。ラジコンの楽しみを競技以外にも広げようと企画され、族車やパトカーのように見た目で楽しませる車が出走した。

 ボーカロイドのステッカーで飾った「痛車(いたしゃ)」が、外国産のスーパーカーを抜き去る。モーター駆動なのに、派手なエンジン音を鳴らす車もあり、コンマ数秒の勝負に神経をとがらす参加者も和やかな表情に。

■操縦、整備…何役も

 今大会最年長のベテランは窪山功一さん(75)=大阪府豊中市。現役時代はバイク店を営み、自らもバイク、カート競技に出場。ラジコン歴も40年という、根っからのモータースポーツ好きだ。

 「0・1秒でも相手を上回ればいい。その単純さが好きなんや」

 仲間からは親しみを込めて「コウちゃん」と呼ばれている。所有する20台の愛車から、この日は黄色いボディーの1台をひっさげて参戦した。

 「メカニック、デザイナー、レーサー。すべてを一人でできるのがラジコンの魅力。でも、スポンサーも自分なのがつらいね…」。嘆きに、なんともいえない哀愁が漂った。

■逆転で決勝へ、少年の笑顔に

 予選を終え、タイム順にA、B、Cとグループ分けされ、参加者は決勝に臨む。B、Cグループの決勝で1位になれば、Aの決勝にも参加できる。

 大会前日に取材した小寺さんは当日も午前7時半から試走と最終調整を行ったという。予選で振るわず、Cグループに入ったが、決勝で会心の走りを見せ、Aの決勝に滑り込んだ。

 部門の頂点を決める決勝。小寺さんのスタート位置は、出場する10台の最後尾。ただでさえ速い相手と最初から差がつくのは不利だが、レースにはアクシデントがつきもの。先頭集団のミスを狙い、辛抱強いレースを展開した。

 正しくセッティングされた車は、コーナーを抜けても車体が上下に弾まず、レール上を走っているように見えるという。小寺さんの車はまさしく、レールを滑るように快走し、最初の2周で2台を抜き去った。

 高い集中力を維持しているように思えたが、その後のコーナーでまさかの事故。コースの壁に激突し、最下位に沈んだ。

 「強い選手と精いっぱい戦えた」。レース後、悔しさを抑えながらそう語った小寺さん。頭に巻いたタオルの下からは白髪がのぞいたが、その表情は少年の頃のようだった。

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