少年スポーツの全国大会進出から、ノーベル賞の受賞まで、さまざまな祝い事の場面でまちの祝福ムードを盛り上げる垂れ幕。ほとんどの業者が布に直接印刷する製法を取る中、兵庫県多可町の園崎孝さん(82)は手作業で描く昔ながらの方法を続けている。妻の三智さん(78)との共同作業で、年間約60枚を仕上げる。「祝い事に花を添え、多くの人に喜んでもらえる」とやりがいを感じている。
孝さんは1884(明治17)年創業の老舗商店「えびすや百貨店」の4代目で、現在は会長。大阪の大学を卒業し帰郷後、商店街の夏祭りに演歌歌手の瀬川瑛子さんらが出演した際、歓迎の垂れ幕を担当したのをきっかけに作り始めた。
地域のスポーツ少年団から注文が入るほか、町が募集する垂れ幕の入札にも参加。他に参加する事業者が少ないため、ほとんどを園崎さんが受注している。
注文が入ると、社長で娘婿の茂樹さん(60)がパソコンでデザインし、大きな紙に印刷して布の下に敷く。透かしながら文字のふちをなぞり終えると紙を外し、筆で丁寧に色を塗っていく。絵の具を乾かし、三智さんが四隅を折り返して縫うと完成だ。
「修正が効かないゴシック体は難しい」と孝さん。蛍光灯と日光では色の見え方が異なる点にも注意が必要。先日はプロ野球巨人の大勢投手の垂れ幕で、球団カラーのオレンジ色のつもりが外で見るとピンク色になってしまい、塗り直したという。
「街で自分の描いた垂れ幕を見ると、うれしい気持ちになる」。老人会の依頼には、ほとんど利益なしの価格で応じ、ライフワークとして垂れ幕作りに励んでいる。
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