安倍政権の2年が問われる衆院選。現行制度で最少タイとなる40人による兵庫の攻防を追う。(総選挙取材班)
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「身を切る改革もできない自民に、既得権と戦う規制緩和ができると思いますか」
3日夜、神戸・東灘区の阪神御影駅前。兵庫1区の維新前職井坂信彦(40)が家路を急ぐ人波に問い掛けた。
2年前は自民前職盛山正仁(61)に約3千票差でかわされ、比例復活に甘んじた。今回も盛山、共産新人筒井哲二朗(43)と顔を合わせる。違うのは、自身の政党が旧みんなの党から維新になったこと。そして、前回3万7千票余りを集めた「民主候補」の不在だ。
維新との競合を避けるため、民主は結党以来初めて擁立を見送った。井坂は地域の会合で「ここは自民と互角に戦える数少ない選挙区」と強調。自らを「野党統一候補」と位置付け、反自民票に照準を定める。
しかし、視界が晴れているわけではない。
「だまされちゃいけませんよ。公務員労組から応援を受ける民主に改革なんてできない」。公示前日の1日午後、神戸・元町で維新共同代表の橋下徹(45)は「大阪都構想」で対立する民主に弓を引き、共闘路線への消極姿勢を見せた。
盛山陣営はすかさず攻め込む。「自民の関係者が来るのは初めてや」。ある教職員労組の幹部は、神戸市議の突然の来訪に目を丸くした。
労働組合を攻撃する橋下の存在を糧に、民主と維新を離反させる-。今回も激戦を見込む自民の地方議員らは、衆院解散前から労組への飛び込み訪問を続ける。
陣営は街頭でも「働く人の本当の味方は誰か」と訴え、民主の支持母体・連合に秋波を送る。「取れるものは何でも取りに行く」。ベテラン市議は前回までの敵陣に切り込む覚悟を口にした。
筒井もその争いに割って入ろうと、「安倍政権と正面から対決しているのは共産党だけ」と自共対決をアピールする。
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同じく民主の候補者がいない兵庫10区。公示日の2日、8選を期す自民前職渡海紀三朗(66)の出陣式には、7月に加古川市長に転身したかつてのライバル、岡田康裕(39)の姿があった。
岡田は民主公認として4回連続で渡海と対決。渡海を1度破り、民主政権に強い逆風が吹いた前回でも約5万5千票を獲得した。維新が新人松井雅博(35)の擁立を発表した先月21日の数日後、渡海は自ら岡田を訪ねて支援を求めた。
動きを知った松井は岡田に「中立」を願い出たが、その岡田は出陣式で周囲が驚くほど渡海支持を鮮明にする。「野党議員をのみ込むぐらいの懐を持って、日本を引っ張っていただきたい」
岡田を突破口に民主支持層にも浸透する、という戦略の練り直しを迫られる松井。「しがらみのない政治へ改革勢力を結集する」と維新の看板を前面に掲げる。共産新人井沢孝典(64)は労組も意識し、工場や社宅前での演説に力を注いでいる。
宙に浮く民主票。その動向に各陣営が目を光らせる。=敬称略=