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手際よくお好み焼きを焼く店長の沖中幸夫さん。持ち帰りの注文も次々と入る=広島市中区新天地
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手際よくお好み焼きを焼く店長の沖中幸夫さん。持ち帰りの注文も次々と入る=広島市中区新天地
最もスタンダードなへんくつやのメニュー「そば肉玉入り」=広島市中区新天地
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最もスタンダードなへんくつやのメニュー「そば肉玉入り」=広島市中区新天地
現在は2~4階に23店舗が入るお好み村。1992年に高層ビルへ生まれ変わった=広島市中区新天地
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現在は2~4階に23店舗が入るお好み村。1992年に高層ビルへ生まれ変わった=広島市中区新天地
「お客さんとの一期一会を大切にしたい」と話す藤原良太さん=広島市中区紙屋町
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「お客さんとの一期一会を大切にしたい」と話す藤原良太さん=広島市中区紙屋町
チョコレートで描いた原爆ドーム=広島市中区紙屋町
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チョコレートで描いた原爆ドーム=広島市中区紙屋町

 薄く伸ばした生地にキャベツが山盛り。その上に豚バラ肉、エビ、イカ天-。お好みの具材がキャベツを覆い、さらに炒めた麺をドサッと入れる。ジューッ。心地よい音とともに鉄板からソースが焦げるにおいが漂ってきた。広島のソウルフード「お好み焼き」。その歴史は、戦後復興と深い関わりがあることをご存じだろうか。戦後76年の夏、現地を取材すると、戦後を生き抜いた庶民のたくましい姿が見えてきた。(名倉あかり)

 ■コンビニより多い店舗

 お好み焼きの前身は小麦粉を水で溶いて薄く焼き、ネギや削り節などをのせて食べた「一銭洋食」とされる。戦前にはおやつとして親しまれていたという。

 お好み焼き店やソースメーカーなどでつくる一般財団法人「お好み焼アカデミー」(広島市西区)によると、日本全国1万6千店以上のお好み焼き店のうち、大阪府、兵庫県、広島県の3県の店舗数が全体の4割を占める。

 具材をあらかじめ混ぜ込む関西風に対し、広島風は生地の上に具材を重ねて焼いていく。広島県内には1600店以上あり、広島市内は約800店が集中。その数はコンビニエンスストアよりも多いという。

 ■戦争未亡人の生きる糧

 お好み焼きの歩みについて、老舗の一つ、創業昭和22(1947)年の「元祖へんくつや」本店(広島市中区)の店長、沖中幸夫さん(54)が、祖母から伝え聞いた話を教えてくれた。

 原爆が投下された戦後、焼け野原になった広島。中心部では即席の屋台で、配給物資のメリケン粉(小麦粉)を使った生地に野菜をのせ、半分に折ったお好み焼きが作られるようになった。今と違い、肉や卵は入っていない。四角に切った船の鉄板を使って焼いた店もあったという。

 みっちゃん、麗ちゃん、ふみちゃん…。「○○ちゃん」という店名は今も広島でよく見かける。戦争や原爆で夫を亡くした女性が生計を立てるために店を開いたため、女性名が多く使われているという。同アカデミーによると、戦地から帰ってきた家族が見つけやすいようにという理由もあったと言われている。

 どろっとしてコクのあるお好みソースは、屋台の店主らとソース製造会社が話し合って生まれた。広島風の特徴であるそばが入った理由は「同じ鉄板で焼いていた焼きそばと、お好み焼きを合わせた『まかない』が好評になった」と沖中さん。ボリュームが増し、街の復興に汗を流した男たちの空腹を満たしたことがうかがえる。

 ■鉄板の前の語り部

 昭和40(1965)年ごろ、屋台の店が2階建ての店舗に集まってできたのが観光名所の一つ、「お好み村」(広島市中区)。メディアが取り上げるようになり、広島の名物として浸透していった。

 沖中さんは「うちは古風なお好み焼き。味は屋台時代から大きく変わっていない」と話す。どこの店も基本の材料は似ているが、生地の配合、鉄板の温度、焼き方、ソースなどはそれぞれ。「おいしさは食べる人の好み」と笑う。

 コロナ禍で激減したが、修学旅行生や観光客には機会があれば店の経緯と合わせて原爆についても伝えるようにしている。「自分の家みたいに気軽に立ち寄ってほしいし、お好み焼きから広島を知ってもらえたら」。沖中さんは、鉄板を囲むにぎわいが一日も早く戻ってくることを願う。

【神戸生まれの男性も原爆ドーム近くに店舗】

 原爆ドームから南東約300メートルの場所に、藤原良太さん(35)が営むお好み焼き店「もみじ亭」(広島市中区)がある。以前は外国人観光客が多く訪れていたといい、英語に苦戦しながらも広島の歴史を説明してきた。

 藤原さんは神戸市で生まれ、幼少期は転勤の多い親とともに全国各地で居住。中学、高校生時代を過ごした広島は「自分にとって古里」と話す。

 航空専門学校を卒業後、航空会社で働いたが、経営破綻を経験。広島に帰り、「この場所らしい仕事がしたい」と3年の修業を経て2013年に店をオープンした。

 数あるお好み焼き店の中で特色を出そうと考え、内装やメニューに、昔から好きなアニメや漫画を前面に押し出した店を構えた。趣味を生かし、外国人観光客にはチョコレートで原爆ドームなどの絵を描いたプレートを提供することもあるという。

 絵のサービスは、広島を訪れてくれた感謝の気持ち。「絵が思い出に残れば、きっとここで見て学んだことを忘れないでいてくれる」と語った。

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