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阪神・淡路大震災後、子どもの心のケアに尽力した冨永良喜教授=神戸市中央区脇浜海岸通(撮影・長嶺麻子)
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阪神・淡路大震災後、子どもの心のケアに尽力した冨永良喜教授=神戸市中央区脇浜海岸通(撮影・長嶺麻子)
2008年の中国・四川大地震で被災地を訪れた冨永良喜教授(左)。リラックス法を伝えた(提供写真)
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2008年の中国・四川大地震で被災地を訪れた冨永良喜教授(左)。リラックス法を伝えた(提供写真)

 1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、子どもの心のケアに取り組んできた兵庫県立大大学院減災復興政策研究科の冨永良喜教授(69)=災害臨床心理学=が今春、退任する。国内外の被災地に足を運んで阪神・淡路の教訓を伝えるとともに、いじめや新型コロナウイルス禍での心のケアにも尽力。自らの歩みを振り返りメッセージを寄せた。(中島摩子)

 震災時は兵庫教育大(加東市)の助教授で、障害児教育が専門だった。震災後、学生たちと避難所に向かったが「相談などの心のケアを求める人は少なかった」という。眠れない、イライラする、肩がこるといった訴えが目立ち「言葉じゃなくまずは体だと思った」。被災者に肩の上げ下げなどのリラックス法を実践。「目の前がすっきりした」「眠れた」などの感想が寄せられた。

 忘れられないのは95年3月、「血を抜いてください!」と訴えてきた女性のことだ。興奮してほおは上気し、行政への不満などをまくし立てた。リラックス法を教え、畳に座って背中をそらせると、声のトーンが落ち、ふっと力が抜けた。女性は「死のうと思ったけど、落ち着くことができた」と話したという。

 「体は心のキャンバス。抱えている問題を体はおのずと語る。身体的な安心感が回復できるアプローチが重要だ」と冨永教授。避難所での経験はその後、さまざまな場面で子どもと向き合うベースになった。

     ◇

 阪神・淡路で心のケアが注目され、災害時だけでなくいじめ防止への活用にも関心が広まり、三田、神戸市などでスクールカウンセラーとして活動するなど各地の学校に出向いた。学校で感じたのは「学校と避難所は似ている」。心のケアを前面に出すのではなく、子どもと一緒にリラックスできる方法を考案した。

 イライラしたり、心が落ち着かなかったりしたときのセルフコントロール。それは「人生に起こるさまざまな困難への『生きる構え』を育む」と考えた。

 県内で26人が亡くなった2004年の台風23号や07年の加古川女児刺殺事件では学校現場のサポートに入った。11年東日本大震災では被災地に月1回訪問し、岩手県では教育委員会のスーパーバイザーを10年務めた。

 傷ついた子どもたちには「大変なことが起きると体が硬くなったり不安になったりするけれども、それは当たり前」と伝え、一緒に体を動かした。「心のつぶやき」を見つめ、1人で抱えるのではなく、家族や友人、先生など信頼できる人に話していいんだよ、と伝えてきた。

 そうした活動で脳裏に浮かんだのは、中学1年の時に阪神・淡路で姉を亡くした女性のこと。震災について話すことを避け続け、大学生の時に体調を崩した。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。

 「強い回避は回復を妨げる」と冨永教授。無理に話す必要はないけれど、安全や安心が確保された環境なら、被災体験や「心のつぶやき」を表現し、分かち合うことは、子どもの成長にもつながると考えている。

    ◇

 今、心配しているのがコロナ禍の影響だ。兵庫県教育委員会が20年7月、県内の小学生約1万6千人にアンケートしたところ、低学年の35・9%、高学年の21・1%が「怖くて、落ち着かない」と答えた。「眠れない」「いらいらする」なども目立った。

 「コロナは大災害」とする冨永教授。将来予測される南海トラフ巨大地震を見据え、小中高で心の健康を扱う授業を行うよう求め、力を込めた。

 「自分の心と体をよく知り、危機に向き合う力を身に付ける。そのためには平時の心のケアが大切だ」

【特集ページ】阪神・淡路大震災

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