ＩＴなどの最新技術を駆使して「食」を革新する「フードテック」が注目され、兵庫県内の企業も参入している。加古川市のベンチャーは、コンニャクイモ由来の素材を使って低糖質、低カロリーの肉製品や菓子を開発。神戸市の企業は、野菜のうま味を引き出した食品で環境負荷の低減を目指す。昆虫食や人工知能（ＡＩ）を搭載した調理機器など裾野は広く、市場が活気を増している。（広岡磨璃）

　フードテックの動きは２０１０年代半ばに欧米で起こった。代表的なのは、人口増による将来のタンパク源不足を解決する分野。大豆などを使った代替肉や培養肉、昆虫食がある。

　新型コロナウイルスの感染拡大で高まった食への関心も追い風に。国連が掲げる持続可能な開発目標（ＳＤＧｓ）が重視される中、人口増や環境負荷などの課題解決も期待される。

　加古川市のベンチャー「シデカス」は、元は工業用だったコンニャクイモ由来の素材に着目。他の食材に混ぜ込むことで、カロリーや糖質を抑えて食物繊維を豊富にし、食品の機能性を高める「ニンジャペースト」を１９年に開発した。２０年から「ニンジャフーズ」の名で、ペーストを使ったお好み焼きやハンバーグを商品化。今年１月からはブラウニーを公式サイトで販売する。

　ニンジャの名は世界展開を意識。海外ではこんにゃくが珍しく、ボタン一つで料理ができる「３Ｄフードプリンター」関連の企業も興味を示したという。寄玉昌宏社長（３６）は「小麦などアレルギー食材の代替にもなる。食べたい物を制限なく食べられる体験を提供したい」と話す。

　代替肉に対し、「野菜のうま味を引き出し、肉や魚に負けないおいしさを届ける」と視点を変えたのは、神戸市灘区の「フードピクト」。料理の使用食材を絵文字で示すフードピクトを手掛ける同社は、昨年７月から「１００％　ＰＬＡＮＴ　ＢＡＳＥＤ（プラントベース）」の名前で、県産野菜を原料とした冷凍ミールキットを販売している。

　丹波の黒豆を使った野菜ミンチ、神戸の春菊のパスタソースなど、シェフと一緒に県内農家を巡って開発したメニューは５種類。昨年は千パックが売れた。今年４月ごろに公式サイトで再販売を予定している。

　菊池信孝社長（３５）は１８、１９年に米国のフードテック会議で情報収集し、当初は豆やキノコで代替肉ミンチを開発した。だが、農家のこだわりなどを知ったことで、野菜本来の味を生かす方向へ転換した。菊池社長は「地元野菜を使えば、肉や輸入穀類に比べ、水使用量や二酸化炭素排出を抑えられる」と話す。

　県内の大手企業では、洋菓子製造のユーハイム（神戸市中央区）が、職人の技術をＡＩが再現するバウムクーヘン用オーブンを２０年末に開発。会員組織「フードテックイノベーションセンター」も立ち上げた。

　総菜メーカーのフジッコ（同）は昨年３月、大豆を主原料に、主食となる高機能フード「ダイズライス」を発売した。

■３０年後に世界で２８０兆円市場の試算も

　フードテックは、欧米のＩＴ業界が先行して発展した。国内では２０２０年、農林水産省が企業などと「フードテック研究会」を発足させ、約４００団体が集まる官民協議会に発展している。

　農水省の委託を受けた三菱総合研究所（東京）の試算では、２０５０年のフードテック市場規模は世界で約２８０兆円と、今後３０年で１０倍以上に膨らむ。

　調査を担当した葦津紗恵主任研究員は「新しい技術が消費者に受け入れられるかが鍵だが、社会課題を解決する分野は理解が得られやすい」と話す。例えば、植物由来の食品や水産物の陸上養殖は、環境負荷を低減させる。食品ロス削減や、心身の健康に役立つ技術も成長が見込めるという。

　兵庫では、県と神戸市が「国連プロジェクト・サービス機関（ＵＮＯＰＳ、ユノップス）」と連携。「ＳＤＧｓ」に取り組む企業を支援するプログラムでは、１９社のうち３社がフードテック関連企業だった。