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「少年法の厳罰化は治安の安定に逆効果ではないか」とも語る神戸学院大法学部長の佐々木光明さん=神戸市中央区港島1、同大ポートアイランドキャンパス(撮影・吉田敦史)
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「少年法の厳罰化は治安の安定に逆効果ではないか」とも語る神戸学院大法学部長の佐々木光明さん=神戸市中央区港島1、同大ポートアイランドキャンパス(撮影・吉田敦史)

 新たに18歳、19歳を「特定少年」とし、大人に準じた扱いとした改正少年法について考えるシリーズ「成人未満」。第1部は、殺人事件を起こしたとされる3人の元少年を取り上げましたが、このような重大犯罪はごく一部です。佐々木光明・神戸学院大法学部長に、少年司法の「現在地」を尋ねました。(聞き手・霍見真一郎)

■厳罰化を促した「自己責任論」

 -今回の少年法改正を、どう位置づけますか。

 「少年法の基本的な価値を変えかねない大転換だと思います。改正法は、特定少年を刑事手続きに乗せる対象事件を増やしました。自分の行為を振り返らせ、やり直しの機会を与えるのではなく、刑罰という制裁で対応する考えが強く出ています。少年法は甘いと言われますが、実は刑事手続きより厳しい面もあります。例えば、刑罰としては起訴猶予や罰金で済む事件であっても、少年院ではあいさつ一つから生活を指導し、心の内側に踏み込んで反省を促す教育がなされます」

 -少年法は戦後の約半世紀はほぼ手つかずだったのに、2001年以来5度目の改正となりました。

 「1990年代からの『自己責任』の強調が背景にあります。国がつくった枠組みについていけばよかった『護送船団方式』の社会構造が、バブル経済の崩壊によって変わり、コンプライアンス(法令順守)が叫ばれるようになりました。そんな中、97年に神戸の連続児童殺傷事件が起きます。逮捕された少年は規範を失った子どもの象徴として論じられ、最初の法改正に至りました。しかし殺人は、少年事件の1%未満です」

 -少年法の厳罰化が求められるのはなぜですか。

 「少年犯罪を社会の責任と考えるより、罪を犯した少年は秩序を乱す『敵』とみなす方が、受け入れられやすいからです。幼い子どもに『そんなことやったら、おまわりさんが来るよ』と言うでしょう。あれは、威嚇によって行動の抑制を促しています。特定少年が起訴されると実名報道が可能になりましたが、これも威嚇であり、制裁です。ただ、非行少年は虐待や貧困など家庭の問題を抱えているケースが多く、犯罪と親和性が高い。制裁を柱とした考え方は、非行少年の社会での孤立を生み、再犯を助長しかねません」

 -「特定少年」と同じ世代の法学部生は、少年法改正をどう見ていますか。

 「厳罰化を求めがちです。社会で理不尽な経験を積んできた年配者の中には、なぜ少年が犯罪を行うのかと考える人もいます。でも恵まれた環境で育った学生は、非行少年の受けてきた虐待などに思いをはせられません。なぜルールを守らないのか信じられない、制裁を科せ、となります」

 -少年法は被害者の視点が足りないと感じました。

 「少年事件で、被害者の思いが十分反映されてこなかったのは事実です。学生からも『仮に自分の子どもが殺されても加害者の更生を考えられるか』と尋ねられます。しかし、制度の構想には冷静さも必要です。被害者の支援は、少年法と別にしっかり考えるべきです」

=おわり=

【ささき・みつあき】 1954年、青森県生まれ。中央大法学部卒。2004年から神戸学院大教授。21年から同大法学部長・大学院法学研究科長。専門は刑事法・少年司法。

【バックナンバー】
(8)真相究明 公開の刑事裁判、被害者に重い意味
(7)空白期間 「逮捕時28歳」に少年法適用
(6)推知報道 死刑確定、割れた実名と匿名
(5)生育環境 親の自殺や体罰「過小評価」
(4)光市母子殺害 更生より極刑、最高裁が判断
(3)償いの形 手記出版「息子は2度殺された」
(2)匿名の森 「会ってもいい」遺族の思い暗転、手記「絶歌」出版で
(1)生存者 連続児童殺傷、厳罰化の契機に 「罰受け償うのが当然」

成人未満成人未満 第1部 3人の少年
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