神戸市兵庫区に生まれ育った富樫守さん(80)は小学校の低学年のころ、父に「明日から名前が富樫になる」と告げられた。それまでは「渡嘉敷」。沖縄に多い3文字の姓だった。
「琉球人お断り」という部屋貸し広告が、はばかられることなく張り出された時代があった。戦前、沖縄から台湾をへて神戸に移り住んだ両親もつらい体験をしたことだろう。
「差別からわが子を守ろうとしたのではないか」。守さんは改姓のわけをそう語る。「とがし」としたのは、「とかしき」の名をせめて胸にとどめておきたかったからかもしれない。
父母は沖縄のことを語りたがらず、家でも沖縄方言を話さなかった。自分もどこか沖縄を遠ざけていた。
転機は1960年代、神戸大生のころ。祖父母を訪ね、沖縄の島々を旅した。多彩な方言。頭の上に物を乗せて運ぶ人たち。南国の魂がこもる島唄。「そこに独立した文化圏を感じた。次第に両親が沖縄出身であることに自信が出てきた」
もっと知りたい。大学を出て教師になっていた守さんはついに仕事をやめ、パスポートを手に沖縄に渡る。71年3月。本土復帰を翌年に控えていた。
* *
世代は随分と離れているが、兵庫県尼崎市の川端みゆきさん(44)にも沖縄を遠ざけていた少女時代がある。むしろ「嫌いだった」。
友だちを誕生会に誘った時のこと。「親に『その地区の子とは遊ぶな』って言われた」。まさかの返事。「その地区」には沖縄出身の人が多い。みゆきさんの母もそうだった。
凍る心をとかしてくれたのはやはり、沖縄の文化。中学3年生の時、歌手の安室奈美恵さんをはじめとする「沖縄ブーム」が到来した。修学旅行が沖縄に決まると、みんなから文化や慣習を尋ねられるように。遠かったウチナーとの距離が一気に縮まった。
* *
沖縄と本土のはざまで揺れたアイデンティティー。時をへて、2人は何を思うのか。
現地で復帰を見届けた富樫守さんは、あれからずっと沖縄に暮らす。琉球大の研究生として、島と本土の文化の違いを勉強した。方言も学んだ。再び教師になり、高校生たちと話し合った。
この半世紀、痛感するのは自分が育った本土との心の距離だ。米軍基地の縮小を声をからして訴えてきたのに、政府には届かない。ヤマトンチュ(本土の人)との温度差も感じる。
「富樫」と「渡嘉敷」。名刺には二つの姓を並べる。今年3月には神戸で自らの体験を語った。「自分は本土で生まれたウチナーンチュ。どちらも知る者として伝えられることがある」
尼崎の川端みゆきさんは母と沖縄料理店を切り盛りしている。沖縄の守り神シーサーののれんと、ハイビスカスの描かれた看板が目印だ。
コロナ禍で休業を強いられた間、沖縄にしばらく滞在し、伝統楽器・三線の教師免許を取った。「本場のレベルは高かった。足元にも及ばない」と苦笑い。
店でたまに三線を披露しながら、みゆきさんは願っている。沖縄を多くの人に知ってほしい。文化も、歴史も、人々の思いも。
■
沖縄に心を寄せる人たちの今を、3回にわたって伝えます。
(津谷治英、久保田麻依子)
【沖縄県からの移住】大正末期から昭和初期にかけ、経済的に苦しかった沖縄県では猛毒を含むソテツで飢えをしのいだ時期があり、「ソテツ地獄」と呼ばれた。職を求めて本土に移住する人は多く、社会インフラが破壊された太平洋戦争後もその流れは続いた。兵庫への移住も盛んで、沖縄県人会兵庫県本部によると、前身組織が発足した1946年には3094世帯が入会。現在は約1070世帯という。
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