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数学3の授業を1対1で受ける3年生。学力の伸び幅は大きい=宍粟市千種町千草、千種高校
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数学3の授業を1対1で受ける3年生。学力の伸び幅は大きい=宍粟市千種町千草、千種高校
千種高校の生徒が企画し、住民を招いて6月に開いた野外映画祭。資材レンタルなど企業との交渉も生徒自身で行った=宍粟市千種町千草、千種高校
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千種高校の生徒が企画し、住民を招いて6月に開いた野外映画祭。資材レンタルなど企業との交渉も生徒自身で行った=宍粟市千種町千草、千種高校

 中国山地の山あいにある全校生徒112人の兵庫県立千種高校(宍粟市千種町)が、旧帝国大などの難関大志望者から多様な背景を持つ生徒まで、幅広い層に選ばれる高校として注目を集めている。一時は廃校が危ぶまれた時期もあったが、進路に応じた少人数指導で進学も就職も実績を残し、地域の信頼を得た。少子化を背景に県内でも公立高校の再編計画が打ち出されたばかり。今後も小規模校の増加が見込まれる中、高校存続の成功例となっている。(古根川淳也)

 兵庫、岡山、鳥取3県の県境に近い千種川の源流部。人口約2600人の同市千種町にある千種高2階会議室で、3年理系の大田光さん(17)が田中昌宏教諭(56)と1対1で数学3の授業を受けていた。

 「そこで先にマイナスを消しておくんや。そう。そういうこと」

 白板で微分の問題を解く大田さんの数式を、田中教諭が一つ一つ細かく指導する。

 同校は1学年1学級。クラスの約40人は、国公立大などを目指す「チャレンジ(C)」、進学・就職希望の「ベーシック」、就職に向けた「アクティブ(A)」の3類型に分かれ、C類型は2年生から文系・理系に分かれる。

 体育やホームルーム以外は別々に授業をするため、3年C類型の6人のうち、唯一理系を選んだ大田さんは数学3や物理を1人で受ける。高校でここまで細分化した少人数授業は珍しく、生徒の弱点がすぐ分かるため学力の伸びが大きいという。2021年度はC類型9人のうち6人が国公立大に合格した。

 一方のA類型も授業は少人数で教師を複数配置。さまざまな理由で勉強が苦手な生徒も学ぶ。同市内の女性(39)は中学の特別支援学級に通う長男が千種高を目指しており「学力に応じて丁寧に指導してくれると聞いた。普通科の高校で頑張れば一般就職できる可能性もある」と期待する。

 同校の入試では定員40人に対して受験者は例年38人程度で、基本的に全員合格できるという。

 ただ、授業が細分化する分、教師の負担は大きい。同校の常勤教諭は10人で、非常勤を含め20人で授業を回す。高校教師の1週間の平均授業数は14・0時間だが、同校はそれを数時間上回る。それでも生徒が素直なため、教師らも指導に熱が入るという。

 松浦弘幹校長は「教師が少ない分、情熱を持っていないと回らない。皆さん前向きな人ばかり」と感謝する。

 同校は1975年に山崎高の分校から独立した。当初は1学年2学級だったが、2000年ごろの荒れた時代には地元の中学生が都市部に流出。生徒が集まらず廃校も懸念された。

 危機感を抱いた当時の学校が旧千種町内の全町民にアンケートを実施。高校として進学実績や部活動が期待されていることを知り、加配教員を活用して01年に3類型別の授業を導入した。

 少人数指導で少しずつ国公立大の進学実績が出ると、「通わせても大丈夫」と信頼感が芽生えた。10年には市立千種中学校と県内初の「連携型中高一貫教育」を導入。千種中の生徒は希望すれば進学できるようになった。

 住民らも「千種の子どもは千種で育てよう」と学校をサポート。今では町内のこども園と小中高校生が合同でマラソン大会を行い、町ぐるみで応援する。市も県内の高校では初の昼食(給食)の提供を始めた。こうした取り組みが評価され、千種町外からも生徒が集まるようになった。

 3年C類型のある男子生徒は同市中心部の山崎町からバスで50分かけて通う。中学時代は成績優秀で部活でも活躍したが、中学2年の一時期、心身の不調で不登校を経験。都市部の進学校も選択肢だったが、少人数で教師との距離が近く、緑に囲まれた千種高校が自分に合っていると考えた。

 小さな学校で多様な背景を持つ同級生と仲良くなり「一人一人に言葉にできない悩み、存在すら知られていない苦しみがある。この高校だからこそ視野が広がった」と言う。将来は相互扶助の地域づくりを支える非政府組織(NGO)の設立を考え、総合政策が学べる難関大への進学を目指しているという。

教育高校再編西播千種高校
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