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レコード店「汎芽舎」の店内。オーナーの槇山悠さんはDJ教室も開いている=神戸市中央区元町通1
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レコード店「汎芽舎」の店内。オーナーの槇山悠さんはDJ教室も開いている=神戸市中央区元町通1

 若者を中心に広がりを見せるレコード人気の再燃。これまでなじみのなかった“CD世代”の記者(32)は、背景に昨今の昭和レトロブームや、1970~80年代に流行した日本の「シティポップ」の世界的リバイバル、欧米でのレコードブームなどがあることを知った。ノスタルジックで立体感のあるレコードの音色に魅了され、プレーヤーを購入したのに続き、初めての自分の1枚を選ぶべく神戸のレコード店を訪ねた。

♫CD世代、初めて買ったのは「らいおんハート」

 記者はCD、MD、携帯オーディオプレーヤーを使ってきた世代。小学生で初めて買ったCDはSMAPの「らいおんハート」、中学時代には塾が一緒だった男子から「俺のおすすめB’zリスト」をもらってドキドキしながら聞いた記憶がある。大学時代に1人暮らしを始めた時はレンタル店が近くにあり、はやりのCDを借りるのが楽しみだった。

 だが、今ではスマートフォンで音楽配信のサブスクリプション(定額利用。サブスク)サービスに入っているため、いつ、どこでも、どんな音楽でもすぐに聞けるようになった。「アルバムの最初から最後まで通して聞いたのはいつが最後だっけ…」。久しぶりにじっくり音楽を味わいたくなり、写真共有アプリのインスタグラムで見つけたレコード店「汎芽舎(はんげしゃ)」(神戸市中央区元町通1)を訪ねた。

♫欧米のレコードブーム、じわり国内にも

 「レコード店なんて超下火の時代。『まだあるの?』と言う人もいた」。同店店長の槇山悠さん(42)は2005年、25歳で店を構えた当時を振り返る。大阪・心斎橋にあった伝説のレコード店「人類レコード」に憧れ、「文化と音楽の空間をシェアする場」をつくりたいと開業に踏み切った。

 程なく海外ではレコード人気が再燃し始めた。08年には米国のレコード店関係者らが、レコードの魅力をアピールするイベント「レコード・ストア・デイ」(レコード店の日)を開催し、やがて毎年の世界的行事に拡大。10年代半ばには欧米でブームに火が付き「レコードを使ったライブやイベントが頻繁に開催され始めた」といい、槇山さんの店でもインバウンド(訪日客)のレコード需要は高かった。

 日本と海外の温度差を長らく感じていたが、数年前から日本でもじわじわとレコードが人気に。「サブスク配信をしていない山下達郎のレコードはブーム前に500円だったのが、今では約1万円に値上がりして入手困難」というから驚きだ。

♫スマホの音とは比にならない

 槇山さんがセレクトしたレコードが並ぶ店内には、プレーヤーも数台置かれている。初心者が最初の1枚を選ぶこつを聞くと、「サブスクでよく聞く曲のリストや好きなアーティストを尋ねて、傾向からこういう音が好きかも、とお薦めします」。記者が「強くてエネルギーのある音楽がいい」とむちゃ振りをすると、ヒップホップの女王ミッシー・エリオットをかけてくれた。歌声や演奏が立体的な層となり、さながらディスコのよう。スマホの音とは比べものにならない。

 「レコードはジャケットにも注目してほしい。レコードは見て、聞いて、触れて楽しい総合芸術。ピンとくるものを選んでほしい」と槇山さん。他のお薦めも試聴させてもらい、ミスターフィンガーズの「アラウンド・ザ・サン」を購入した。ハウスミュージックに優しいピアノの旋律が重なり、直感でかっこいいと思い選んだ。

 価格は4千円。安くはないが、その分、早くも愛着が湧いてきた。槇山さんは「サブスクで、音楽を楽しむハードルが下がったのはいいこと」と前置きしてこう言う。「レコードは物として存在し続ける。今は分からないと思う音楽も、ある年齢に達すると、かっこいいと思う時がくる。そういう1枚をぜひ見つけに来てほしい」

 帰宅して早速、レコードに針を落とす。くるくる回りだした黒い円盤が、近距離無線通信「ブルートゥース」搭載のスピーカーから軽やかな音を奏でる。表面が終わると、くるっと裏返す。この手間もまた味わい深い。

レコードが聞きたい!(前編)

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