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「婦人部」の存続や地域行事の見直しについて話し合う住民たち=豊岡市福田
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「婦人部」の存続や地域行事の見直しについて話し合う住民たち=豊岡市福田

■自治会運営在り方見直しへ 

 「『婦人部』っていう名称は変えたほうがいいんではないか」

 1月中旬のある夜、兵庫県豊岡市福田の集会場。仕事や家事を終えて集まった40~60代の男女9人が、自治会婦人部の在り方を話し合っていた。

 豊岡の市街地と田園地帯の境目にある福田区。市内で最も児童数が多い五荘小学校の校区にあり、約360世帯、約900人が暮らす。若い家族が流入しつつ、何世代にもわたって続く旧家も多く、住民が毎日交代で幟を手に神社を参拝する古い風習も残る。

 福田に住んで25年の田中寿子さん(54)は、転居してきた当時にこう言われたことを覚えている。「区の三役や評議員は男だから、(女性が入る)婦人部があるんじゃ」

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 性別の違いで生じる格差「ジェンダーギャップ」。福田区の自治会組織が「事業見直し特別委員会」を立ち上げ、問題の解消に乗り出したのは2021年、区長の杉山隆一さん(69)の発案だった。

 市の広報誌で「脱男だから、女だから 誰もが自由に生き方を選択できるまちへ」と題した特集が組まれ、現状や課題をまとめた記事などに目を通していた時、ある女性の漏らした言葉が杉山さんの脳裏によみがえった。「運動会で接待するのがしんどい」

 区の住民が参加する運動会は毎秋、五荘小の校庭で開かれる。徒競走や玉入れといった競技以外の時間も女性が料理の準備などに追われる傍らで、男性はビールを飲んで楽しむ-というのがいつもの光景だった。

 だんじりを出す秋祭りでも料理を準備し、防災訓練では炊き出し、敬老会でのもてなしもそう。「裏方」の業務を担うのは女性と決まっている。地域のつながりを保つイベントは確かに大事かもしれないが、「しんどい」とこぼす母親の姿を見て育った女の子が、地元に戻ってきてくれるだろうか。

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 「『婦人部』の名に馴染みのある人が来やすいから(名称は)残しておいて、そこで意見を言ってもらう方がいいのでは」

 特別委員会では、存続を推す意見も出た。地域の実情を見てきた前副区長の橋本拓己さん(65)によると、婦人部という枠があるからこそ、特に高齢の女性は地域活動に参加しやすかったという。

 特別委では「意思決定の場に女性も」との目標を掲げる。しかし、地域の会合で積極的にモノを申すのは男性が大半で、夫の代わりに出席した女性が意見を述べる姿を見たことがない。いきなり発言の場を用意しても、効果があるとは思えなかった。

 特別委の発足直後に実施した区民対象のアンケートの結果も、橋本さんの懸念を裏付ける。市がジェンダーギャップ解消を推進することは7割の人が知っていたが、「福田でも積極的に取り組むべきと思うか」との質問には「分からない」が8割。区の役員に女性が加わることについても、半数以上が「分からない」と回答した。

 結局、女性の意見を聞く場を設け、行事や活動にきちんと反映させるとの方針で一致。婦人部の名称変更は次年度に持ち越した。

 目指すべき組織の姿と実情との折り合いをどう付けるのか-。22年4月から23年2月まで計11回、それぞれの思いや考えをぶつけながら議論を重ねて見えてきた壁でもあった。

 特別委では、婦人部の役割を絶えず見直しの検討や、女性の役員就任の促進などを盛り込んだ「答申」を区役員会に提出した。そこに、なぜ見直しが必要なのかを記した書面も添えた。文章をまとめたのは「ジェンダーなんて考えたこともなかった」橋本さんだった。

 「区を運営するのは、ほぼ中年以上の男性。そして前例踏襲で事は進んできた。『オッサン達が、オッサン達に都合よく、やりやすいよう』仕組みを作ってきた。女性や若い人の意見を聞くことはほぼない」

 メンバーから「言葉がきつすぎるのでは」との意見もあったが、引っかかりを感じてもらい、さらなる議論の呼び水にしたいとの思いだった。

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