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永久保存する記録の膨大化を防ぐよう呼びかけた最高裁の文書の一部。記録廃棄問題を調査する過程で文書の写しが見つかったという
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永久保存する記録の膨大化を防ぐよう呼びかけた最高裁の文書の一部。記録廃棄問題を調査する過程で文書の写しが見つかったという
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 3人が正面に並んだ姿は、法廷を思わせた。神戸連続児童殺傷事件をはじめとした重大少年事件の記録廃棄問題を受け、5月25日に最高裁が開いた調査報告の記者会見。実際、中央に座った小野寺真也総務局長も、両脇を固めた同局の南宏幸参事官や川瀬孝史第二課長も、全員が裁判官だ。だが裁判と違った。3人は起立し、謝罪する。深々と頭を下げた時間は約15秒。記者が戸惑うほど長い沈黙が流れた。(霍見真一郎)

■発端

 取材を通じ、神戸家裁で連続児童殺傷事件の全記録が廃棄されたと知ったのは、昨年9月だった。

 改正少年法をテーマにした連載企画の取材で、この事件の記録を閲覧請求した場合の対応を確認した。約2カ月後に連絡があり、家裁を訪ねた。職員は「廃棄済みのため、閲覧、謄写(コピー)はできません」と淡々と述べた。経緯は「不明」という。衝撃の事実だった。

 少年事件の記録は、少年が26歳になるまで保存し、原則廃棄されるが、史料的価値が高い記録の永久保存を義務づける内規や最高裁通達が存在していた。しかし記録は捨てられていた。

 最高裁に廃棄の是非を問うと、「見解を述べるのは差し控える」と言及を避け、廃棄のいきさつが不明な点も「問題ない」と回答。当時の職員に対する聞き取りの意向を尋ねても「仮に聴取しても、あくまで個人の記憶や見解の範囲にとどまる」として否定的だった。

 それから約8カ月。取り付く島がなかった最高裁が、率直に自らの非を認めていた。「憲法の番人」とも称され、司法の頂点に位置する最高裁。何が、その態度を変えさせたのか。

■文書

 手元に、平成3(1991)年11月22日と日付が入った文書がある。表題は「判決原本永久保存の廃止と事件記録等の特別保存について」。それまで永久保存とされてきた明治期以来の民事裁判の判決原本を保存期間50年で廃棄する方針を固めたため、最高裁が全国の裁判所に対応の徹底を求めたものだ。

 その文書で最高裁は、多数または大部の事件記録の特別保存(永久保存)は「記録庫の中の相当なスペースを取り、保存事務上も負担が大きい」と記す。

 保存文書が膨大にならないよう、弁護士会などから特別保存の要望があってもすぐに判断せず、できるだけ保存期間の満了直前まで待つよう推奨。「年月の経過によって、特別保存するまでの必要性はないとの判断に至る事件も少なくないであろう」とまで書き、永久保存を記録の一部にとどめたり、一度選定しても後に取りやめたりする方法の検討も挙げていた。

 重要な記録を永久保存する仕組みを設けたのは最高裁だが、自らが積極廃棄を促し、制度を「骨抜き」にしていた。

■理念

 一連の廃棄問題は調査報告書で「最高裁による不適切な対応に起因」と総括された。そして、再発防止策の柱として、事件記録には歴史的、社会的意義を有する「国民の財産」が含まれると明記した理念規定を、内規に追加するとした。

 小野寺総務局長は記者会見で「裁判所職員、あるいは組織として、記録を後世に残すという意識が元々なかった」と話した。さらに、こうも語った。「それを変えていく取り組みは、一筋縄ではいかないのではないかと思っている」

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