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■公文書管理法と理念に差

 重大な少年事件記録の保存が進まない要因の一つには、保管場所の不足があった。最高裁は今後、記録の意義を示す理念規定を明文化し、国立公文書館へ移管する方針を打ち出した。だが調査報告書に「記録は国民の財産」と言い切る表現はなく、国民の財産が「含まれる」とだけ記された。「国民共有の知的資源」と明記する公文書管理法との温度差は大きい。長らく「記録は事件処理のためのもの」と捉えてきた裁判所は、廃棄の原則を抜本的に変えることはしなかった。

■毎年20キロメートル

 全国の裁判所で保存される記録はどれほどあるのか。最高裁の調べでは、わずか1年で文書の厚みは推計約21~25キロメートルにもなる。全国的に記録庫の容量が不足し、2013年には最高裁和光別館資料棟(埼玉県和光市)が完成し、東京地裁・簡裁の記録の一部を移したが、その収容率さえ既に9割に及ぶという。

 「記録を保存すべきという考えは理解できるが、置く場所がない」。裁判官を除く裁判所職員約4千人が加入する「全司法労働組合」の中矢正晴・中央執行委員長(59)は話す。保存の在り方を検討するため、最高裁は全ての記録廃棄を停止するよう指示したが、増え続ける文書に、各地で悲鳴が上がっているという。

 神戸連続児童殺傷事件の全記録を廃棄した神戸家裁の庁舎は、事件の2年後、1999年に建て替えられた。二つの記録庫は計約170平方メートルある。それでも21年度に廃棄された文書量は14・1トンに上る。最高裁によると、当時の家裁担当者は連続児童殺傷事件の記録と認識していたのに、曲折の末、結局は廃棄文書の山に入れてしまった。

■コスト膨大

 裁判所書記官を長く務めた中矢委員長は「個人的には全件の永久保存を望む」としつつ、施設の現状が、歴史的資料を置いておく想定になっていないとも指摘する。

 最高裁の報告書はそれを裏付けるように、記録を保存するのは「第一次的には事件処理の必要のため」と断じる。一方、歴史的、社会的な意義がある記録も含まれるとして、「国民共有の財産として保存し、後世に引き継いでいく必要がある」とも強調。ただ、国立公文書館などを活用しても、全件保存すれば膨大なコストを要するとし、「適切に選別していくことが相当」との結論に至る。原則廃棄から原則保存への急激な転換は、物心ともに実現できなかった。

■意識の変革

 最高裁の内規には、新たに保存の意義をうたう理念規定が盛り込まれる。

 中矢委員長は「職員の意識の変革に大きくつながると思う」と評価する一方、「国民の財産が含まれる」とする表現にひっかかると話す。「公文書管理法と同様、いったん記録は全て国民の財産と定義した方が良かったのではないか」。現在は保管場所に制約があっても、手続きが電子化され、将来的に全件保存へ移行できる可能性があるからという。

 最高裁の見直しで、特別保存(永久保存)記録を国立公文書館へ移す道筋はつけられた。しかし長年、保存を「特別」としてきた意識を根本から変えるには、相応の時間が求められそうだ。(霍見真一郎、田中真治、篠原拓真)

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