港町に降り立ったサッカー界のスーパースターは、2019年も神戸の顔となる-。元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ、34歳。18年夏にJリーグ1部(J1)のヴィッセル神戸に合流すると、本拠地ノエビアスタジアム神戸(神戸市兵庫区)は8試合連続で満員御礼となった。
著名な経済学者は「経済効果99億円」とそろばんをはじき、地元のサッカー少年は「手が届かないはずの人が、そこにいる」と最高峰の技巧に目と心を奪われた。
世界的名手が長年暮らした芸術の街スペイン・バルセロナ。神戸とは姉妹都市の関係にあり、18年は提携25周年の節目だった。ともに海も山も近く、共通点は多い。このタイミングでの来神は偶然か、必然か。
練習が終わると高級車のシートに滑り込み、街を駆ける。愛する家族が待つ自宅は、神戸にある。
■夕方の活気や静かな一面、そんな三宮の雰囲気がいい
-ここ神戸を本当に気に入っているよ。
2018年夏、スペイン北東部の国際都市バルセロナからやって来た歴戦のスターは、神戸の街を愛している。その人の名はアンドレス・イニエスタ(34)。ヴィッセル神戸の司令塔だ。
バルセロナと姉妹都市の神戸を新天地に選び、妻と3人の子どもを連れて来日した。中でも三宮近辺の雰囲気に魅了され、家族と散策している。
-夕方から活気づき、それとは別に静かなところもある。いろんな店で日常的に必要な物を買っているが、使いすぎに注意しているよ。(笑)
お気に入りのレストランもいくつかある。神戸牛、海の幸…。ミナト神戸の王道を味わう一方、食文化への関心も高い。J1神戸の親会社楽天グループが展開する動画配信サイト内の「イニエスタTV」ではすし職人に挑戦した。
母国の名門クラブ、バルセロナで32ものタイトルを積み上げた英雄は、ワイン農場の経営者でもある。「イニエスタワイン」を世に出し、神戸市の外郭団体・神戸みのりの公社が生産する「神戸ワイン」の品評もした。
-ワインは好みによって分かれるが、そこから学び取れることも多い。それがワインの良さ。神戸ワインを試す機会があったが、おいしかった。いいところがある。
世界の2720万人がフォローするイニエスタの写真共有アプリ「インスタグラム」には、関西一円の観光地がたびたび登場する。これも日本文化を学ぶためだが、本職はサッカー選手と主張する。
-はっきりさせたいのは観光目的で来たわけではない。この神戸で結果を残し、自分のキャリアを続けるためだ。
■根っからの負けず嫌い
ピッチ上で淡々とプレーするイニエスタの素顔を垣間見た気がした。秋晴れの昨年11月、いぶきの森球技場(神戸市西区)。ヴィッセル神戸の同僚、DF那須大亮(だいすけ)が自主配信する動画の撮影の様子を直撃取材した時だった。
PKスポットからゴール四隅のリングにボールを通すシュート対決。勝負は10本。元スペイン代表の名手は2-1のスコアで貫禄を示したが、結果に満足しなかった。
すぐに延長戦へ。2人で約20球ずつ蹴った後「これで本当に最後」とイニエスタのみ5球を追加した。だが、リングを通せなかった。
「あと5本!」と言って結局10球増やしたが、成功はゼロ。惜しくも外れると「イヤー」と悔しさで顔をゆがめた。試合でもなかなか見せない表情だった。
根っからの負けず嫌い-。世界最上級のキックは、このような場面の繰り返しで生まれたのだと納得させられた。(有島弘記)