【特集】神戸・教員間暴力
神戸新聞は昨年12月、神戸ハーバーランドの本社で「読者と報道」委員会を開きました。3人の委員から、昨年10月に明らかになった神戸市立東須磨小学校での教師による暴行・暴言問題の報道、記事や紙面について意見を聞きました。メンバーは弁護士の鈴木尉久(やすひさ)さん、関西学院大名誉教授の奥野卓司さん、神戸クルーザー会長の南部真知子さんです。委員会の議論を紹介します。(文中、敬称略)
南部 まだ神戸市教育委員会が設置した外部調査委員会の報告がまとまっていないので、分からない部分が多い。それを踏まえて意見を述べれば、神戸新聞のこれまでの報道に触れ、想定を超えた許されざる行為があったのだとの感想を抱く。一番の被害者は子どもたち。そして、現場で奮闘する多くの教員への社会的信用が失われた。さらに言えば、教師を目指す人たちの気持ちを毀損(きそん)してしまったのではないか。
奥野 南部委員が言ったような教育の問題ともう一つ、新聞のあり方についても考える必要がある。神戸新聞は使命感を持って報じてきたが、報道を受けて、当初想定していなかったほど世論が沸いてしまった。ネット上にあがると、誰かが加害教員4人のプライバシーの情報を暴いて拡散させる。週刊誌も踏み込んだ記事を書き立てる。読者にも庶民感覚として、やはりそれが知りたいという欲求がある。だが、新聞には人権を尊重しなければならない建前や倫理観があり、読者の欲求をセーブする方向に働く。その結果、新聞の報道基準に揺れが生じる。編集の現場では、相当悩みながら報じてきたのではと感じている。
鈴木 学校や教育委員会、保護者、神戸市議会などの動きが時系列に沿って報じられ、記者がしっかり追っていることを強く感じた。その上で、取材した事実を報じて終わりにせず、「では、どうすればいいのか」と考える姿勢も打ち出している。被害を受けた教員、加害者とされる教員、ともに紙面に掲載された言葉にリアルさがあった。全体にバランスの取れた報道が意識されていたと思う。
奥野 これまでのところ、一つ一つよく考えて判断されている。新聞というメディアの姿勢、あるいは地元紙としての姿勢。いろんな議論があったのでは、と推察する。ただ今後、どんな問題に対しても一貫した基準を示すことができるかどうか。そこが揺らいでは、読者に統一感を欠く印象を与えかねない。
石崎勝伸・報道部デスク ほかのメディアで、ともすれば面白おかしく取り上げられることもありがちな中で、なぜこんなことが起きてしまったのか、なぜ1年以上も見過ごされてきたのか、考えながら報じてきた。これからも報告書の公開や刑事手続きなどで悩むと思うが、地元紙としてどう捉えるのかという視点は大事にしていきたい。
■難解な行政用語 伝わる工夫を
南部 4人の加害教員について、神戸新聞は実名を伏せている。紙面で名前が報じられたのは、記者会見を開いた現校長と人事異動で市教委付になった前校長だけだ。
石崎 事件の加害者の場合、私たちは刑事手続きの段階で実名か、匿名かを判断する。今回は行政処分で懲戒免職になることも予想され、推移を慎重に見守りたい。
南部 新聞社としての判断はそれでいいと思う。もう一つ、担当デスクから処分の話が出たが、神戸市は加害教員に対し、条例を改正して分限処分による給与差し止めに踏み切った。新設の規定で遡及(そきゅう)させることへの議論もあるが、彼らはそれまで有給の形で自宅謹慎しており、将来的な処分に向けた措置だと考えることもできる。想定をはるかに超えた事態なのだから、超法規的にも見える新たな対応もやむを得ないと思う。それほど重大な問題だった。
奥野 私も給与差し止めなど、神戸市の措置は現実的にはよかったと考える。ただ、それを報じる新聞紙面に、教育委員会や教育委員会事務局、さらに人事委員会などが次々と登場し、一般の読者にはついていけない。教育委員は、例えば米国では住民が選挙で選んでいる州がある。神戸市の場合、誰が選び任命しているのか。そういったことも分かりやすく伝える工夫が必要ではないか。
南部 分限処分と懲戒処分の違いも極めて分かりにくい。読者にしてみれば、分からないことが生じて頭がもやもやしてしまうと、肝心なところが見えなくなる。分限と懲戒、教育委員会と教育委員会事務局。一つ一つ、押さえながら報じることは大事だ。
鈴木 確かに分限と懲戒の処分の違いや改正した条例の遡及適用について、もっと丁寧に報じる必要があるだろう。弁護士の立場から言えば、「超法規的」というのは賛成しかねる。教育が政治利用された戦前の反省もあり、教育委員会は民主的統制を受けない機関だ。紙面を読むと、社説でそれらの点を指摘しており、抑制の利いた報道になっていたと思う。事件の加害者を水の中に落ちた犬のようにたたく風潮が見受けられることがあるが、加害者の人権は配慮されなければならない。
石崎 一般に聞き慣れない言葉や教育委員会の仕組みについては、解説や図で示すなど工夫して伝える必要があると思っている。
鈴木 「神戸方式」という独特の人事については紙面で図示されており、分かりやすかった。加えて、市議会の議論や市長の反応、関係者の一問一答など、一つ一つ詳細に報じる姿勢に好感を持った。今のところ、調査委員会の報告が出ていないので、加害教員4人の役割が分からず、一緒になって被害教員に暴行を加えた印象になっている。今後はそれぞれの関与の程度も明らかにしてもらいたい。学校の可視化、教育委員会の可視化、そういった視点が求められる。
南部 保護者の間でも教師間の暴行や暴言はうわさになっていたと思う。私もPTAの副会長を務めたことがあるが、親としては子どもが人質になっているような面も否定できず、告発しにくい、言いにくい状況があるのも事実。学校の再生に保護者はどう関わっていけるのか。そういったことも追ってもらいたい。
2020/1/23神戸教員間暴力、加害側2人の「給与差し止め違法」 神戸市人事委2021/8/5
神戸・教員間暴力の加害元教諭宅にユーチューバー侵入疑い 36歳男逮捕2021/2/8
再発防止、システムで解決の仕組み構築へ 東須磨小の教員間暴行問題で検討委が報告書2021/1/27
東須磨小暴行「市教委と学校の関係性つくられていない」 再発防止検討委一問一答2021/1/27
教員間暴行・暴言問題発覚から1年 失意から優しさの輪を広げて2020/10/10
そして現場は今-2020/10/8
取材を通して- 本紙担当記者2人の思い 2020/10/8
「先生が先生にいじめられている」端緒に 教員間暴力のスクープと神戸の教育を巡る一連の報道2020/10/8
本紙「教員間暴力を巡る一連の報道」が新聞協会賞に2020/10/7
「東須磨小の変化」保護者ら実感 地域に好影響も2020/10/4
教員間暴行の東須磨小 問題発覚1年、現場の今は2020/10/3
東須磨小・教員間暴行 年内に再発防止策提言 検討委が初会合2020/7/30
神戸市教委、教員間暴行問題で専門家委 年内めどに報告書2020/7/28
教員同士「目標」語り合って 文部科学省調査官・長田徹さんに聞く2020/7/2
「教員間暴行問題」報道を議論 本紙「読者と報道」委員会2020/1/23
「『やめて』と言うと居場所なくなる」東須磨小・教員間暴行の被害教員インタビュー2020/4/29
「もう一度、先生として仕事したい」東須磨小・教員間暴行の被害教員が心境語る2020/4/29
東須磨小暴行・暴言問題 元兵庫教育大学長 梶田叡一氏に聞く2020/4/5
東須磨小・教員間暴行 被害教諭が新学期から復職2020/4/1
東須磨小・教員間暴行 加害教諭の起訴猶予、保護者「疑問拭いきれず」2020/3/28
東須磨小・教員間暴行 加害元教諭ら4人起訴猶予2020/3/27
神戸市教委 新設の「教育監理役」に弁護士ら3人2020/3/5
「児童の大切な時間奪ってしまった」停職処分の女性教諭が保護者会にコメント 教員間暴行2020/2/28
「思いが先走り厳しい指導に」前校長が保護者会にコメント 教員間暴行2020/2/28
教員間暴行 加害教員2人を懲戒免職 神戸市教委が処分2020/2/28
東須磨小の教員間暴行は「氷山の一角」 全学校園調査で他校でも同様事案2020/2/28
「先生のような大人にならないで」免職処分の教諭が保護者会にコメント 教員間暴行2020/2/28
「黒幕報道、どこから出てきたのか」教員間暴行で教育長が会見2020/2/28
加害教員ら処分、午後にも発表 東須磨小教員間暴行2020/2/28
元教員「私へのパワハラ、報告書に反映されてない」教員間暴行の再調査を市長に要望2020/2/27
教員間暴行の加害教員や管理職 28日に処分へ2020/2/25
教員をテープで拘束、教室に放置 着任3~4カ月で最初の被害 教員間暴行2020/2/24
東須磨小、別の教員間でもトラブル 隣の学級から児童一時移動2020/2/23
「逆らうやつは辞めさせる」 東須磨小の前校長「プチヒトラー」2020/2/23
加害教員2人の懲戒免職を検討 神戸市教委 教員間暴行2020/2/22
加害教員免職も視野 市教委、来週にも処分 神戸・教員間暴行2020/2/22
職員室で飛び交う「死ね」「カス」 調査委が感じた闇2020/2/22
東須磨小教員間暴行 調査委「闇が深い」 一問一答2020/2/21
東須磨小調査報告書公表 保護者、識者の受け止め2020/2/21
東須磨小調査報告 ハラスメントは4教員への行為2020/2/21
東須磨小問題で調査報告書公表 125項目をハラスメント認定2020/2/21
【アーカイブ】東須磨小問題でハラスメント認定 神戸市教委が会見2020/2/21
【アーカイブ】東須磨小問題でハラスメント認定 外部調査委が会見2020/2/21
「もう一度立ち上がる」被害教員が児童らへ文書 神戸・教員間暴行2020/2/21
加害教員4人を2月中に処分へ 神戸・教員間暴行2020/2/19
東須磨小報告書21日公表へ 教員間暴行、市教委ミスで2カ月遅れ2020/2/18
神戸市教委が「監理室」設置 学校巡回「地区統括官」も2020/2/14
神戸市教委係長が自殺 教員間暴行扱う会議担当2020/2/10
東須磨小問題 別の加害教員も給与差し止めで審査請求2020/1/30
神戸市の教員に民間企業研修 20年度試験的導入2020/1/14
教員ハラスメント「ある」「あった」13% 神戸市教委調査2020/1/10
教員間暴行 学校支援の専門部署新設へ 神戸市教委2020/1/1
東須磨小問題 調査委の報告書公表「年度内に」2019/12/20
神戸市長が批判「言語道断」 市教委の資料提供ミス2019/12/18
教員間暴行の報告書、公表先送り 市教委資料に漏れ2019/12/17
東須磨小の報告書20日公表 加害教員年内処分へ2019/12/14
教員異動の「神戸方式」 市教委が廃止一部前倒し2019/11/26
東須磨小で体罰調査 加害教員在籍時の全児童、卒業生対象2019/11/25
教員間暴行「教師のブランド失墜」現役、OBら危機感2019/11/25
教員間暴行 「子ども思い通りに動かせる」教諭が赤裸々に語る、学校現場の閉鎖性2019/11/25
年齢構成のいびつ、どう克服 公立小の模索続く 若手に要職、立ったまま気軽に会議…2019/11/24
40代、20年で半分以下 公立小教諭のいびつな年齢構成 教員間暴行の背景か2019/11/24
市教委幹部ボーナス 東須磨小問題受け増額見送りへ2019/11/20
東須磨小 児童ケア日常へ一歩ずつ 学校開放事業を再開へ2019/11/19
東須磨小問題 加害教員4人から任意聴取 兵庫県警2019/11/18
「職員室の荒廃そのままに」元教員、前校長の参考人招致を市議会に陳情 教員間暴行2019/11/12
教員間暴行問題 加害教員の処分説明書に誤記載2019/11/11
加害教員が給与差し止め不服で審査請求 教員間暴行2019/11/8
被害教員が公務災害申請へ 東須磨小・教員間暴行2019/11/8
教員間暴行で神戸市長「信頼回復を」 新ポストの課長2人に訓示2019/11/1
市教委、世論盾に押し切る 東須磨小の加害教員給与差し止め2019/11/1
加害4教員の給与差し止め 東須磨小問題 審査会では異論2019/11/1
加害4教員の分限休職 審査会で異論相次ぐ2019/10/31
加害教員の給与差し止め巡り 31日に審査会 教員間暴行2019/10/31
東須磨小の前校長、市教委付に異動発表 問題発覚後は出勤せず「学校運営の安定図る」2019/10/30
東須磨小学校の前校長 現勤務校から市教委付へ2019/10/30
世論に押されスピード成立 条例改正に市会困惑2019/10/30
給与差し止め条例成立 11月上旬にも分限処分へ2019/10/29
給与差し止め条例改正案が可決、成立 神戸・教員間暴行問題2019/10/29
給与差し止め改正案 恣意的運用に懸念も「反対しづらい」2019/10/29
加害教員の給与差し止め条例改正案 29日成立へ2019/10/28
教員間暴行、加害教員の給与差し止めへ 神戸市が条例改正案を追加提案2019/10/28
緊急報告 東須磨小教員暴行【下】神戸方式2019/10/26
緊急報告 東須磨小教員暴行【上】職場環境2019/10/25
NPOが学校教育法の順守申し入れ 教員間暴行受け神戸市教委に2019/10/25
教員間暴行受け、陸上競技会で学校名アナウンス取りやめ「児童の安全最優先」2019/10/25
神戸市の市教委支援策 教育関係者らに疑問の声も2019/10/25
神戸市教委のガバナンス強化へ 市が異例の支援策2019/10/24
給食カレー外し、家庭科室改修に苦言も 神戸市教委が会議2019/10/24
保護者「加害者教壇去って」元教師「教員志願者が失望」 神戸・教員暴行で本紙に投稿2019/10/24
加害教員の給与差し止めへ 神戸市、条例整備を検討2019/10/24
東須磨小・教員暴行 徹底調査、厳格処分を申し入れ 神戸市議会2019/10/23
東須磨小の教員間暴行・暴言問題 神戸市長、教育長ら会議2019/10/17
人間として恥ずべきことした 加害4教員謝罪の言葉 神戸・教員暴行2019/10/17
教員間暴行 東須磨小で保護者会 市教委対応に不信感あらわ2019/10/16
教員間暴行 非公開で臨時の校園長会開催 出席者「教員の資質どう上げていくのか」2019/10/15
教員間暴行 文科副大臣、市教委に「厳正な処分を」2019/10/15
教委説明より1年前から教員間暴行 男性教員が被害届、刑事事件に2019/10/11
学校長の意向働く人事異動ルール「神戸方式」廃止決定 教員間暴行受け神戸市教委2019/10/11
【教員暴行詳報】飲酒強要し平手打ち プロレス技で首絞め 髪の毛に接着剤2019/10/11
キムチ鍋原液を強要、顔に熱湯やかん 新たな被害50項目判明 神戸・東須磨小暴行2019/10/11
児童の胸ぐらつかみ答案用紙破り捨て 教員間暴行の加害教員 2019/10/11
市長「教育行政の危機的状況」 教員間暴行で神戸市が調査チーム2019/10/10
「子供達へびっくりしたねごめんね」被害教員からメッセージ2019/10/10
「面白ければよかった」加害教員、暴行の動機話す 教員間暴行2019/10/10
教員間暴行、前校長は「黙認」 東須磨小の現校長が会見2019/10/10
「子どもに『あなたのこと嫌い』」教員間暴行の加害教員、児童にも2019/10/10
教育現場とは思えないハラスメントの数々 東須磨小、教員間暴行2019/10/10
【動画】神戸・教員間暴行 校長ら会見2019/10/9
【詳報】東須磨小・教員間暴行 校長会見「4人中2人は前校長と親しい関係」2019/10/9
東須磨小で保護者説明会 学校「調査中」繰り返す2019/10/8
9日に神戸市教委会見 東須磨小校長が経緯説明へ2019/10/8
東須磨小前校長もパワハラか 暴行被害教員を叱責 神戸2019/10/9
20代教員に激辛カレー強要 第三者が動画撮影か2019/10/7
20代の4教員に暴力・暴言 教育長「前代未聞」2019/10/7
当初「教員間トラブル」と報告 教員間暴行、学校後手に2019/10/5