手術下手で医師の道を諦め、転身した研究者が、世界の晴れ舞台に臨んだ。山中伸弥京都大教授(50)。ストックホルム・コンサートホールでのノーベル賞授賞式直前、記者の質問に答えた際には、表情に緊張感を漂わせた。さまざまな細胞になる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の開発からわずか6年でのスピード受賞。業績への高い評価の証しだ。新薬開発や再生医療への利用にも期待が膨らむ。
「日本の科学者を代表するつもりで臨みます」。10日、いよいよ迎えたノーベル賞授賞式。山中教授は表情を引き締め、妻知佳さん(50)とストックホルム中心部の会場へ向かった。
山中教授はえんび服、知佳さんは淡いピンクの着物姿。知佳さんは山中教授の晴れ姿に「かっこいい」、山中教授は「家内はよく着物を着るのでいつも通り似合っています」とほほ笑み合った。
この日の朝、「いつもと随分違う緊張感がある」と話した山中教授。同行している母美奈子さん(81)の体調を気遣いながら「亡くなった父の形見の腕時計を母が着けてくれるので父も今日は一緒に喜んでくれると思う」と感慨深そうに語った。
授賞式には総勢約1600人が出席。山中教授は式に美奈子さん、22歳と21歳の娘2人、一番弟子の高橋和利京都大講師(35)らを招待した。(ストックホルム共同)
▼「語りの名手」聴衆魅了
文字が少なく見やすいスライド、相手に合わせた語り口、講演中に1回は笑いをとる。ノーベル賞授賞式を前に、カロリンスカ研究所で7日の記念講演に臨んだ山中教授は「プレゼンテーションの名手」と評価が高い。一発勝負の語りで学生を引きつけ、研究費を獲得し、理解者を増やしてきた。
「iPS細胞は髪の毛からも作れます。私はちょっと遠慮したいですが」「(共同受賞の)ガードン先生は、とてもきれいな髪の毛で、うらやましい」。山中教授のおはこ「髪ネタ」だ。講演や記者会見の場をほぐす。
7日の講演では「授賞発表の前日にカロリンスカ研究所所長に会ったとき、彼女が私にウインクしたと思った」と切り出し、聴衆を和ませた。幹細胞を説明するスライドでは、「インモータリティ(不死)」を「インモラリティ(不道徳)」と表記し、「わざとではありません」と言い訳してみせ笑いを誘った。
聴衆を魅了するプレゼンの原点は、1990年代に留学した米グラッドストーン研究所だ。「プレゼンの大切さをたたき込まれた。いかに人の心をつかむか。笑いの一つもとらないと駄目だと」
初めて研究室を持った奈良先端科学技術大学院大では「人間の体細胞から万能細胞を作る」という壮大なテーマを掲げた。「しかしそれでは学生が来ないので、ビジョンを語りかけた」。それを聞いて研究室に入った高橋和利さん(現・京都大講師)ら学生の力が、iPS細胞の作製につながった。
▽山中 伸弥氏(やまなか・しんや)62年9月4日生まれ、大阪府東大阪市出身。神戸大医学部卒業後、国立大阪病院で臨床研修医。研究者に転身し、93年に大阪市立大大学院博士課程を修了。米グラッドストーン研究所へ留学後、奈良先端科学技術大学院大教授を経て04年、京都大再生医科学研究所教授。10年から京大iPS細胞研究所所長。ラスカー賞、ウルフ賞、ガードナー国際賞など多数受賞。
2012/12/11









