連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

  • 印刷
隣同士の長岡千代子さん(右)と水野博司さん。良き話し相手でもある=高砂市荒井町小松原1(撮影・後藤亮平)
拡大

隣同士の長岡千代子さん(右)と水野博司さん。良き話し相手でもある=高砂市荒井町小松原1(撮影・後藤亮平)

隣同士の長岡千代子さん(右)と水野博司さん。良き話し相手でもある=高砂市荒井町小松原1(撮影・後藤亮平)

隣同士の長岡千代子さん(右)と水野博司さん。良き話し相手でもある=高砂市荒井町小松原1(撮影・後藤亮平)

 その日は珍しく、不穏な空気が流れていた。

 66~96歳の7人が共同生活を送る「グループリビングてのひら」=高砂市。1階の居間から、最年長の板東初子さん(96)が興奮した様子で出てきた。

 「恥かきましたよ!」。いつになく大きな声。

 事情を聞く。「あの人が『昼ご飯よ』って声掛けるから居間に下りたけど、誰も来やしません。しばらく待って結局1人で食べましたっ」。まくし立てる。

 この日、居間は「コミュニティー喫茶」として開放され、地域住民もいた。昼食もいつもより1時間早い。

 知らない人ばかりで居心地が悪かったのか。板東さんは不機嫌なまま、3階の自室に戻った。

 怒りの矛先となった“あの人”は「早めに知らせた方が、ゆっくり準備できると思っただけなのに」と困り顔だ。

 だが数時間後、2人は廊下で談笑していた。拍子抜けしていると「けんかやないんやから」。あっさり流された。

 てのひらで過ごしていると、時折ぼそっと聞こえてくる。「勝手やねん」「また余計なこと言うて」。住人たちの“同居人評”だ。

 境遇も環境もばらばらな7人が、一つ屋根の下で暮らす。摩擦は避けられない。

 夕食時にぎくしゃくする場面も目にした。「おしゃべりがうるさい」と顔をしかめる人。すかさず「静かすぎると葬式みたいや」。そして互いに聞き流す。

 見ていると、特定の人と部屋を行き来したり、一緒に出掛けたりするような付き合いもない。

 つかず、離れず。長い人生を経てきた者同士の割り切り。この生活に必要な知恵なのかもしれない。

 ある晩、温厚な水野博司さん(66)=仮名=がぶすっとしていた。

 夕食後は居間に長居せず、自室に一斉に引き揚げるのがルール。テレビやエアコンの消し忘れが相次いだため、皆で取り決めた。

 この日は、水野さんが好きなプロ野球のナイターがあった。テレビは自室にもある。だが、試合は白熱。居間の大画面で見たかったのだ。

 その時。「お先に」「もう、あがろか」。何人かが促した。「わかっとうわ」。声がとがっていた。

 「ストレス? もちろんあるわな」。水野さんは照れくさそうに打ち明けた。「でも、妥協せんとあかん。助け合っていかなあかんからな」

 病気で右目が失明し、左目の視力も弱い。移動する時は、隣室の長岡千代子さん(84)と誘い合う。その長岡さんは足腰が悪く、歩行器を手放せない。

 夕食まであと5分。「行こか」。2人は隣り合ってエレベーターに乗り込んだ。(宮本万里子)

2015/10/23
 

天気(9月10日)

  • 32℃
  • 27℃
  • 50%

  • 31℃
  • 24℃
  • 60%

  • 35℃
  • 28℃
  • 50%

  • 35℃
  • 26℃
  • 50%

お知らせ