どこまで手を差し伸べていいのか。迷いながらの取材が続いた。
66~96歳の男女7人が住む「グループリビングてのひら」=高砂市。グループリビングとは、自分の意思を示せる高齢者が支え合って暮らす賃貸住宅で、全国に十数カ所しかない。兵庫ではここだけ。
「ここにいるのは自立した人ですよ」。てのひらを運営するNPO法人の理事長石原智秋さん(68)から聞いていた。
生活をそっと支えるのが、地域住民によるボランティア。一員に加わった。
住人がそろう夕食は手作りで1食550円。体調や予定によって食べない人もいる。
1階居間のテーブルに箸を置き、おかずやみそ汁を温める。炊きたてのご飯をよそう。茶わんいっぱいに、少なめに。人によって少しずつ量が違う。
午後6時。2、3階から住人が歩行器に寄り掛かり、つえをついて降りてくる。この日はおでん。佐古美智子さん(82)が口をつけない。声を掛けようか。
「ジャガイモ、軟らかいわ」。長岡千代子さん(84)がさりげなく言う。佐古さんの手が動いた。
急須を手にお茶をつごうとしたら、「置いといてくれたらいいですよ」。長岡さんにやんわり言われた。
「自分でしたいことを決め、その人なりにできることが自立。無理に促したり、手を出したりしないで」。石原さんの助言を思い出し、見守った。
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朝、玄関で最年長の板東初子さん(96)が、デイサービスの迎えを待っていた。ここでもデイはあるが、加古川まで通っている。
紫色のブラウス。化粧をし、髪をピンで整えている。「毎日きちんと着替えてね、出掛ける。これが大事」
週末には次女ら家族が訪ねてきた。ひ孫を抱き、水入らずの時間を満喫していた。
別の日、廊下で立ち話になった。いすを持ってこようとすると、「大丈夫」。傍らの歩行器にぱっと腰掛けた。
「元気でいないと、こうやって暮らせへんからね」と背筋を伸ばす。刺激と踏ん張りが一日、一日をつなぐ。
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夕食が済むと、てのひらは住人だけになる。
日付が変わる時間帯。静まり返るかと思ったが、個室からはテレビの音が聞こえる。
ふと、佐古さんが心配になった。
要介護3。8月に退院したばかり。家族やヘルパーが通ってきて身支度を手伝っている。
もちろん緊急事態があれば、徒歩10分の所に住む石原さんが駆け付ける。だが、さらに具合が悪くなればここにいられるのか。
てのひらの日常は綱渡りのように見えた。それでも石原さんたちが大切にする「自立」。それは、どんな意味を持つのだろう。
(宮本万里子)