午前7時すぎ。尼学の駐輪場がにわかに活気づく。眠気の残る中高生が次々自転車にまたがる。その中に、ひときわ新しいヘルメットと安全たすき。この春、3人が中学生になった。
これまで通った道場小学校は、1学年1学級の小規模校。尼学は72年前から校区内にあり、当たり前にある施設として溶け込んできた。その子たちが中学に入り、戸惑い、悩むことが二つある。
一つが生徒数。新しく通う北神戸中学校は、800人を超えるマンモス校だ。1学年でも道場小の全児童の倍以上。家族と離れて暮らし、ようやく尼学や道場小に慣れた子たちはまず、その数に圧倒される。「人がいっぱいで、しんどい」
もう一つが尼学のことを周囲に言うかどうか。数年前、ある出来事があった。
女子ユニット。中3の美月が、同じ部活の真央に言った。「部活の子、ここに連れてこんとってな。私、(尼崎)学園にいるって言ってないから」
さらに時間をさかのぼる。仲良しの子の家に遊びに行くと、母親が言った。「学園の子は家に上げたらあかん」。初めて聞いた言葉だった。それから二度と、美月は尼学のことを口外しなくなった。
尼学の副園長、鈴木まやが代弁する。「言わない理由はみんないろいろ。でも、かわいそうと思われたくないのが一番です」。退所してからでもいい。いつか子どもたちに「尼学に来てよかった」と思ってほしい。職員全員の願いだ。
5月上旬の夕暮れ。中1になった悠人が帰ってきた。1週間前、新生活の感想は「まあまあ」だった。この日は念願だった陸上部の練習初日。同じ質問をぶつけてみた。「しんどいけどな、楽しい」。とびきりの笑顔が返ってきた。
(敬称略、子どもは仮名)
2018/5/8