全国に100万人以上いるといわれる「引きこもり」の人たち。国や自治体も支援に乗り出すが、就労を急ぐあまり状態が悪化する懸念も生じている。引きこもりに限らず、精神障害や摂食障害、病気など、さまざまな事情で「家」という安全な場所に避難している人たちが「外」に興味を持った時、気負わず一歩を踏み出せる場所があれば。
そのステップの一つが、生活リズムを整え、自分の特性などを把握しながら自立を目指す、「自立訓練(生活訓練)事業所」だ。神戸市内の事業所に通う、20代の女性を取材した。
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神戸市中央区の「Basic Academy(ベーシックアカデミー)」。赤や黄色、青色の壁紙や照明にこだわったスタイリッシュな空間で、女性はスタッフと一緒に、レンジで簡単に作れるレシピや一人暮らしでかかる費用などの生活シミュレーションを考える。時にはスワロフスキー細工や、造花のアレンジメントを作ることも。「手芸なんてしたことなかったけれど、ここに来たらすごく褒めてもらえて、元気になる」とほほ笑む。
3年前の事故が原因で体調を崩し、自宅にこもるようになった。おしゃれ好きだったが、後遺症で着られる服は限られる。火傷の傷跡を見るたび「もう夢も希望も持てる体じゃない」とふさぎ込み、一日中ジャージで、過ごすことも。心の傷はどんどん深くなり、統合失調症と診断された。
そんなある日、家に訪ねてくれた相談支援員に紹介されたのが自立訓練事業所だった。
「つまらない所なら帰ろうと思っていたけれど、行ってみたらまるでカフェみたい。スタッフもオシャレで想像と全く違った」。同事業所が掲げる「自分の好きな事を探し、『人生をトランジット(乗り継ぎ)しよう』」というメッセージに「私ももう一度飛び立てるかな」と思えた。
自立訓練では、2年間かけて、生活リズムや服薬を含む心身のコントロール方法を身に付ける。基本的に体調に合わせて通う日を決められ、「多くの壁にぶつかってエネルギーを消耗しきった人たちが、まずは一歩外へ出て、好きなことを楽しみ、再び自分の人生を歩むエネルギーを蓄えられたら」とスタッフ。「ずっと押し殺していた気持ちを吐き出せるようになる人も。それに寄り添い、一緒に歩きたい」
女性も「小さい頃から自分の気持ちを言えず、ずっと『自分が我慢すればいい』と思ってきた。でもここで自分の特性を知り、世界が広がった。今はここに来る日は『何を着て行こうかな』と思うし、帰り道にウインドーショッピングなんかもしちゃう」と声を弾ませる。
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厚生労働省の調査によると、障害者の自立に向けた就労継続支援事業所(A型及びB型)は1万5674カ所、就労移行支援事業所は3503カ所。一方、自立訓練(生活訓練)事業所は2018年度に全国で1341カ所にとどまる。
神戸市精神障害者家族連合会の涌波和信会長は「日本では自立=会社で働く、と考えられがち。何とか働きたいと本人も家族も思い、行政もそれを支援しているが、働こう、働かせようとするあまり無理をして体調が悪化し、引きこもりに逆戻りしてしまうことも少なくない」と指摘。
「例えば家庭内で家事を担うことも自立の一つ。『外に出て働く』という一方通行の支援ではなく、何度も立ち止まったり戻ったりしながら自立に向かえる多様なステップを用意することが必要では」と話す。
(まいどなニュース・広畑 千春)
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