漫画家・喜多桐スズメです。私も小劇場出身の元演劇人で、この「はじめての演劇」はとても興味深く読みました。そもそも「演劇ってなに?」ということについて、1章の概論編で劇作家の鴻上尚史さんがわかりやすく説明をされています。そして、なぜこんな凄いものをタダで配布しているのか気になりました。編集メンバーのひとり、劇作家・演出家の谷藤太さんにお話を伺いました。
谷藤「昔から、演出家や演劇人の間で、音楽や美術は義務教育で習うのに演劇はないよね、という話がありました。そもそも演劇も同じ芸術であるのに。しかも音楽や美術は教科書がある。演劇は教科書もない。演劇を共通言語で学べる教科書を作りたいという気持ちが演劇人の中に常にありました。『演劇の教科書を作る』というのは、私が所属している日本演出者協会の目標だったので、プロジェクトをコロナ前にスタートして、4年かかってようやく『演劇の教科書』に繋がる、第一歩を踏み出せたと思います。」
喜多桐「それは大変な作業でしたね。4年ですか。フランスでは義務教育で演劇(テアトロ)をある程度学習します。義務としては国語の一環で、劇作家のモリエールを勉強するそうですが国語教育だけに止まらず本格的な演劇を教える学校も多いと、フランスの友人に聞きました。日本もそうなるといいですね。」
谷藤「演劇というのは自分以外の人間を演じることで『他者理解』に繋がります。たとえば、悪人を演じたとします。悪人と言われる人がどういう気持ちでその行動をとるのか、考えないと演じることが出来ません。「悪いことをしてはいけませんよ」で、終わってしまうような道徳の授業よりも、遥かに道徳的なことが学べます。2012年から自己表現であるダンスを義務教育で学ぶようになったように、総合芸術の演劇がそうなるのも目標のひとつです。」
喜多桐「演劇は演者だけの物でなく、シナリオ、舞台美術、照明、音楽、衣装と、何らかの形で得意分野を発揮して全ての人が関われる、総合芸術ですよね。」
谷藤「本当にそうなんです。それこそ、様々な理由で関われないと思っている人であっても、劇場の空間にいて鑑賞して時間を共有することで 『演劇』を作り上げることが出来ます。今は好きな動画作品をいつでもどこでも手元で見ることが出来る時代ですが、演者と観客が一つの空間で時間を共有することで成立するのが『演劇』です。どこまでいっても『進化しないアナログなコミュニケーションの手段』が演劇とも言えます。
迷えるプレ演劇人の教科書の初めとして、演劇をやりたいけどどうやったらいいの?という基本的な疑問が解決する内容になっています。それこそ、最少単位の家庭内であっても『演劇』を作ることが出来ます。ママと子どもが演じてパパが鑑賞するという小さな劇場。そんな最小単位の『演劇』であっても、私たちが作った『はじめての演劇』はお役に立てると思っています。演劇に関わるプロフェッショナルが熱く語っているので、初心者にとっては少々難解な部分があるのも事実です。ですが、わからないところは読み飛ばして、興味のある所だけ読んで頂いても、充分お役に立てる内容です。教科書としてはまだまだ完成形とは言えないと思いますが、これを起点に『演劇の教科書』と、堂々と言えるものにして行きたいです。」
◇ ◇
いや~、演劇って本当にいいですね!演劇が好きな人も、この記事を読んで興味を持った人も、興味はあったけどハードルが高かったから忘れていた人も「はじめての演劇」を読んで、自分の中の『演劇』を育てていただければ、演劇を愛する全ての人々の喜びに繋がります。レッツ、ダウンロード。「はじめての演劇」は、日本演出家協会のHPからダウンロードできます。
◆谷藤 太(たにふじ・ふとし)劇作家・演出家・俳優。同志社大学中退後、文学座付属演劇研究所研修科をへて清水邦夫氏が主宰する劇団木冬舎で俳優として参加。1997年劇団enji(エンジ企画)を立ち上げ、現在に至るまで35本のほぼ全ての脚本・演出を担当する。他団体への脚本協力・演出も多数。俳優としてドラマなどへの出演も継続中。
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