いきなり「お前」呼び!?
いきなり「お前」呼び!?

仕事を知る機会として、また就職活動のステップのひとつとして、多くの学生が参加するインターンシップ。近年は「社風」や社員との距離感を重視して企業を選ぶ学生も増えており、現場でのコミュニケーションが応募の決め手になることもあります。しかし、いざ参加してみると、じわじわと職場への違和感が積み重なっていくケースもあります。

■「どうせなら楽しく仕事がしたい!」社風重視のインターン選び

Aさん(関東在住、20代、学生)がはじめてインターンシップを体験したのは、大学三年生の夏休みのことでした。

翌年の就職活動を控え「夏のインターンシップは絶対に参加すべき!!」とサークルの先輩に教えられたとおり、三年生になってすぐインターンシップ情報の収集をはじめたそうです。

興味を持っていた業界は出版、広告、情報、人材、化粧品、アパレルなど広範囲。企画、マーケティング、リサーチ、営業、接客販売と職種も幅広く、どれも楽しそうに感じられ、どの企業に応募するか決めきれなかったそうです。最終的に応募先を絞った基準は、「インターンシップで接する社員の雰囲気」でした。

大手企業からスタートアップまで複数の企業にエントリーシートを送り、2週間のサマーインターンシップに合格したのは、社員の平均年齢が若く、SNSでも明るい雰囲気の社員が多く登場するWebサービス企業でした。数日ごとにさまざまな部署・職種を体験でき、メンターがついて就活の悩みや面接トレーニングもサポートしてくれるという内容で、Aさんの大学からも複数の学生が応募していたといいます。

■仕事も飲み会も全力で楽しい!……けれど、ちょいちょい感じる違和感

仕事も飲み会も全力で楽しむ--そんな雰囲気に魅力を感じていたAさん。説明会や面接で対応した人事スタッフも皆優しく、インターン本番を心待ちにしていました。プログラム以外の「任意参加の飲み会」や「先輩社員との座談会」にも積極的に参加し、サークルの延長のような活気ある空気に、不安より期待の方が大きかったそうです。

しかし、親しくなるほど「じわじわとした違和感」を覚える場面が増えていきました。

「お前、そんな考えやめた方がいいよ?」→ え、いきなり“お前”呼ばわり?
「酒は鍛えておかないと。鍛えられるから!」→いやいや、それは体質ですよね??
「ウチって社内結婚多いんだけど、覚悟しといて(笑)」→それって…いったいどういう意味???

などなど、親しき中にも礼儀ありでは?と感じることが増え、友達に相談したAさん。すると「それ全部、立派なハラスメントじゃない?」と言われ、はっと我に返ったといいます。これをきっかけに、企業選びの基準から「楽しそうな社風」を重視するのはやめることにしました。

「何となく楽しそう、という理由で企業を選ぶのは危ないと気づけたので、インターンシップに参加してよかったと思っています」と語るAさん。入社後に気づく前で本当に良かったと振り返ります。

■「インターンシップで現場社員と親密に」ハラスメント被害2倍の現実

インターンシップでの“親密さ”がハラスメントにつながるケースは少なくありません。パーソル総合研究所が2025年2月に行った「新卒就活の変化に関する定量調査」によると「現場社員と仲良くなった」親密度について「あてはまる」と回答した学生のハラスメント被害を受けた割合は14.6%、「あてはまらない」と回答した学生は7.4%と、約2倍のハラスメント被害を受けていることが分かりました。

「気安さ」や「フレンドリーさ」の表現によっては、セクハラやパワハラにつながってしまうことについて、より企業側の啓蒙が必要かもしれません。

【参考】
▽パーソル総合研究所「新卒就活の変化に関する定量調査」

◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。