健康診断の結果をきっかけに、長年の不摂生生活を見直そうと決意する人は少なくありません。しかし、その取り組みが必ずしも正しい方向に進むとは限りません。東京都在住のDさん(40代)の夫もその一人。長年の単身赴任生活がたたり、直近の健康診断で中性脂肪の値が高く再検査に。結果を受けて「自炊を始めた」と言います。夫の新しい食生活と、見落としがちなダイエットの盲点とは--。
■単身赴任8年目、食の楽園で太るのは必然?
Dさんの夫は、単身赴任を始めて8年になります。最初は大阪、その後は札幌、そして再び大阪へ。いずれも“食の宝庫”と呼ばれる地域です。串カツや粉文化に彩られた大阪、新鮮な魚介やラーメン、地ビールが豊富な札幌。もともと外食や飲み歩きが好きだった夫が、各地で夜な夜な飲み歩く姿は想像に難くありません。その積み重ねが体型に表れ、年々増えていく体重は“食の歴史”を物語っていました。40代にして目立つ腹回りになっても、仕事終わりの楽しみを手放すことはありませんでした。
ところがついに、健康診断で「黄色信号(赤に近い)」の結果が。中性脂肪とγ-GTPの値が2年前の倍になり、産業医からも生活改善を求められました。観念した夫は「自炊を始めた」と報告してきたといいます。
■自炊の第一歩は「ピザトースト」
しかし、その自炊内容を聞いて、Dさんは思わず驚きました。これまで朝食はコンビニの菓子パンが定番でしたが、「自炊の工夫」を加えた結果生まれたのは、市販のピザソースを塗った食パンに、マヨネーズとチーズをのせて焼いたピザトースト。「大丈夫!マヨネーズはノンコレステロールのを買ってるから!」と胸を張って話したそうです。
確かに自宅調理ではありますが、菓子パンからピザトーストに変えても健康度が上がったとは言い難いのが現実です。タマネギやピーマンを加えれば栄養バランスは良くなりますが、野菜を刻むというひと手間は夫にとって高いハードルのようでした。
■瓶ビールとノンアルの「謎ローテーション」
さらに不可解なのは、アルコールに対する取り組みです。夫は無類のビール好き。医師から「控えるように」と言われたにもかかわらず、久しぶりの外食で最初に注文したのは瓶ビールでした。Dさんが生ビールを頼む横で「おれは瓶ビールにする!」と得意げに言った姿に、思わず首をかしげたといいます。
二杯目からは「健康を考えて」とノンアルコールビールを注文。しかし、「ならば最初からノンアルでよいのでは」とツッコミたくなる場面も。本人の中では「生より瓶、瓶よりノンアル」という謎の序列ができあがっており、理屈より気分が優先されている様子でした。
■「人参+カラムーチョ」奇跡のダイエット食?
夫のダイエットへの挑戦はこれだけではありません。最近は「ニンジンムーチョで3キロ痩せた」と誇らしげに語っていたそうです。その正体は、人参をスライサーで千切りにし、スナック菓子のカラムーチョを和えただけの即席サラダ。「行きつけの居酒屋で出てきて感動したんだ」と話します。
人参を食べることで食物繊維やビタミンは摂取できますが、相棒がスナック菓子では健康効果は減点でしょう。辛味と油分で“おいしい”と感じるのも無理はありませんが、塩分と脂質の過剰摂取につながりそうです。それでも本人は「これなら毎日続けられる」と満足げ。もはやダイエットというより“新しい嗜好”を確立したと言えそうです。
■野菜嫌いと運動嫌い、ダイエットの道は遠い
もともと夫は、もやしや豆腐といった低カロリーで栄養価の高い食材を好みません。淡白な味では満足できず、こってりした濃い味を常に求めています。40代後半になっても味の嗜好は変わらず、運動にもまったく関心がありません。休日はワンルームの部屋でゲームをして過ごすのが定番です。
「自炊=健康」という方程式は、夫の場合には当てはまらないようです。むしろ「自炊=好きなものをさらに自由に楽しめる時間」となっており、体重減少という目的には逆行しています。「ニンジンムーチョで3キロ痩せた」という現象も、太りすぎていた初期の減少にすぎないとDさんは見ています。
■正しい知識がダイエットの第一歩
ダイエットは意志の強さだけでなく、正しい知識と方向性が欠かせません。夫の挑戦はまだ始まったばかりです。ピザトーストに野菜をのせたり、マヨネーズを減らしたり、アルコールやスナック菓子を控える日が来れば--そのときこそ、健康的な生活への第一歩となるのではないかとDさんは考えています。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)
























