連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

第9部 ゆく際(きわ)、くる人

  • 印刷

兵庫県の最南端は、淡路島の先に浮かぶ人口約450人の離島「沼島」。戦乱の世を駆け巡った「沼島水軍」の拠点には今、子どもたちの勇壮な太鼓の音色が響く。

沼島太鼓 水軍に源流
迫力ある音色を目指し、卒業生に教わる子どもたち=南あわじ市沼島、沼島小学校(撮影・大山伸一郎)
迫力ある音色を目指し、卒業生に教わる子どもたち=南あわじ市沼島、沼島小学校(撮影・大山伸一郎)

 車がほとんど走らない静かな島に、和太鼓の音がひときわ大きく響く。

 兵庫県の南端、沼島(ぬしま)(南あわじ市)。11月1日、島唯一の沼島小学校で、全校児童11人が「沼島子ども太鼓」の練習に励んでいた。島を拠点に、縦横無尽に船を操り、戦乱の世を駆け抜けた沼島水軍。懸命に太鼓をたたく子どもたちは、劣勢に立たされた味方を太鼓で鼓舞したと伝わる勇猛な姿に重なる。

 「もっと腕を伸ばして」「ちょっとゆっくり過ぎるで」。9日後に迫る学習発表会を前に、熱っぽく教えるのは、20年前に沼島小を卒業した同級生4人組だ。

 「僕らの頃に始まった太鼓やから。子どもの数が減っても、ここまでできるいうんを見せたいんよ」。手ほどきをしながら、浅山豊さん(33)が胸を張る。

 人口約450人、紀伊水道に浮かぶ小舟のような島。歴史と潮の香りが満ち満ちている。

だんじり 泉州と共通点
島外にいる出身者も帰省し、沼島が華やぐ5月の春祭り。だんじりが豪快に海へ滑り込む=南あわじ市沼島
島外にいる出身者も帰省し、沼島が華やぐ5月の春祭り。だんじりが豪快に海へ滑り込む=南あわじ市沼島

 淡路島の南約4キロにある「島の島」沼島(ぬしま)。周囲約10キロ。上空から見ると勾玉(まがたま)のような形をしている。

 毎年5月。だんじりが海へ滑り込み、豊漁を願う沼島八幡神社の春祭り。島の北、中、南の3区が受け継ぐのは、泉州や神戸で盛んな曳(ひ)きだんじりだ。沼島伝統文化保存会の磯●剛会長(48)は「その歴史は岸和田と同じくらい古い」とみる。

 曲がり角でだんじりを直角に方向転換させる「やりまわし」で知られる大阪府岸和田市の祭りは、1703(元禄16)年が起源とされる。当初は長持(ながもち)にコマ(車輪)を付けたような簡素な作り。「車付き引きだんじり」「箱だんじり」と呼ばれるが、岸和田に現物は残っていない。

 それが沼島に保存されている可能性がある。中区公会堂の地下に、人が入れそうなぐらい大きく、コマの跡が付いた箱が眠る。「地元では江戸時代の箱だんじりと言われとる」。中区の祭り責任者、藤田学さん(48)が指さした。

 岸和田だんじり会館によると、今は「ソーリャ」が主流の掛け声は、かつて「チョーサヤー」だった。沼島は「チョーサジャー」。コマが本体内側に付く共通点もある。大阪へハモなどを売りに行った沼島の漁師が、立ち寄った泉州から文化を持ち帰ったのか。「沼島の人と話すと、泉州の人かと思うほど違和感がなくて」。同会館の武田吉清(よしきよ)さん(39)は海を介した交流に注目する。

※注=●は立つ崎(崎の「大」が「立」)

古墳時代 海人が住んだ地
夕日に映える沼島の南側。遠く四国がかすんで見える=南あわじ市沼島
夕日に映える沼島の南側。遠く四国がかすんで見える=南あわじ市沼島

 バシッ。漁船のへさきが大きく上下し、波を打つ。そばに淡路島、やや遠くに徳島、和歌山が見える。

 沼島小学校で児童に太鼓を教えていた浅山豊さん(33)と船で島を一周した。民家が集まる北側と違い、東岸から南岸一帯は断崖絶壁が続く。「ガラッと雰囲気変わるやろ。こっちは、僕らもあんまり来ることないんよ」。巧みに船を操りながら、浅山さんが大声で話す。

 化け猫伝説のある「古水(こすい)ノ浜」、青い巨岩「青磯(あおいそ)」、1934(昭和9)年の室戸台風で崩れた「下立神岩(しもたてがみいわ)」、洞窟「穴口(あなぐち)」、国生み神話ゆかりの高さ約30メートルの「上立神岩(かみたてがみいわ)」…。神秘的な景観に息をのむ。

 古墳時代、沼島は優れた航海技術を持つ海人(あま)が住んだという。神宮寺(じんぐうじ)には「棒状石製品」という細長い棒が3本、保管されている。和歌山市や淡路市、明石市などの遺跡からも同様の石器が見つかった。塩作りや、死者を祭る道具など諸説あるが、用途ははっきりしない。南あわじ市埋蔵文化財調査事務所の定松佳重(よしえ)さん(49)は「和歌山からやって来た海人が沼島、淡路、明石へと移っていったのでは」と考察する。本州との強い結びつきが見て取れる。

 船を操る技術は中世の沼島水軍、さらに漁師へ。海に生きる島人のDNAが受け継がれる。中川宜昭(ぎしょう)住職(79)は「兵庫県では南の端っこでも、海を中心に見れば、沼島は文化の中継地点や」と誇らしげだ。

島っ子の成長 見守る大人の愛
学習発表会で、沼島子ども太鼓を披露する子どもたち=南あわじ市沼島
学習発表会で、沼島子ども太鼓を披露する子どもたち=南あわじ市沼島

 秋晴れに恵まれた11月10日。保育園と小中学校の合同学習発表会が開かれた。会場の沼島総合センターには住民ら約80人が詰め掛けた。

 演技や発表のたび、お年寄りが隣とつぶやく。「大きなったなぁ」「しっかりしたな」。島で育つ一人一人の名前を覚えて成長を見守る、昔ながらの近所付き合いが残る。

 「沼島子ども太鼓」の番が来た。和やかな雰囲気だった会場が、打って変わって静まり返る。児童が大きく両手を振りかぶり、ドンッと打った瞬間、観客が身を乗り出した。

 上立神岩を表現するポーズも織り交ぜ、「沼島水軍」など3曲を演じ終えた。5年の三宅瞳さん(11)は「もうちょっとできたかな。でも拍手をもらえたし、練習してきて良かった」とほっとした表情。「よう頑張ったな」。会場の最後列で見守った浅山さんが目を細めた。

 小さな島の子どもたちが、たくましく育ってゆく。海のように、大きく深い愛に包まれて。(記事・上田 勇紀写真・大山伸一郎)

南の端はこんなとこ
神戸新聞NEXT
神戸新聞NEXT

 兵庫県の南端、沼島。では、沼島の最南端は? 国土地理院によると、島の南西部の「中瀬ノ鼻」を南へ回り、やや出っ張った辺りだという。漁船で案内してくれた浅山豊さんが「この岸や岩のどれかやろ」と笑う。

 迫力ある断崖が連なる。人が寄りつかない場所かと思いきや、岩には何人もの釣り人の姿があった。淡路島から渡船で訪れる釣り人にはよく知られたスポットだそう。ちなみに、兵庫県水産課によると、陸域と違って海域に明確な県境はない。

天気(9月30日)

  • 24℃
  • 21℃
  • 60%

  • 24℃
  • 17℃
  • 60%

  • 26℃
  • 20℃
  • 30%

  • 27℃
  • 18℃
  • 60%

お知らせ