阪神大震災で倒壊した阪神高速道路神戸線。十六人もの犠牲者を出し、いまなお機能マヒが続く。撤去を望む声も出る中で、公団は事故原因の最終報告を待たず、近く全線の復旧工事に着手する。周辺の民家の被害が比較的少なかっただけに、施工不良の声もあがったが、倒壊原因はいまだ解明されていない。
「ピルツと違うか」-。地震直後、阪神高速道路公団に「高速道路がこけた」との一報が入るや否や、技術部門の幹部は、こう叫んで現場に飛び出して行ったという。
「ピルツ」とはドイツ語でキノコを意味する。神戸市東灘区深江本町付近。六百三十五メートルにわたって北側に横倒しになった高架道路部分は、十七本の橋脚が根こそぎ折れ、まさに一本足の上に頭でっかちの傘が開いて倒れたような形だった。
一本の橋脚と、路面となる床板が一体化した「ピルツ工法」はドイツから導入された。大阪万博前のスピード開通が求められた時に、格好の工法として採用された。短期に低コストで、しかも工期中に国道43号線の交通を防げない-との理由だった。
前代未聞の高速道路倒壊の原因の一つが、このピルツ工法にあったと指摘された。
それだけではない。橋脚内の鉄筋の位置や本数が基準と異なっていたり、横方向からの力に耐える帯鉄筋の数が現行の耐震設計基準の半分しかなかったことなど、現場を調査した学者らの間から施工不良や補強不足を指摘する声が出た。
建設省の兵庫県南部地震道路橋震災対策委員会(岩崎敏男委員長)は三月三十日の中間報告で「設計を上回る大きな水平方向の地震力を受けたことが被災の根本的な原因」と発表した。
その揺れが高架道路の固有周期と重なって増幅された。設計上、段落としと呼ばれる鉄筋の不要な部分に亀裂が入り、これを起点に深い斜めの亀裂が生じて、道路全体がゆっくりと倒壊していった-とした。
委員会報告では、さらに、材料に問題はなかったとした。
だが、この見解に学者の間からの批判は強い。
震災直後の三日間、現地調査した富永恵・京大助教授(コンクリート構造学)は「倒壊した橋柱はほとんどの鉄筋が切れていた。断裂したのはつなぎ目のガス圧接部。断裂するには材料学的に大きく四原因あるが、一本残らず切れたのを説明するには難しい。また、段落とし部に破壊力がかかったのなら、鉄筋はどんな力で切れたのか。不合理な面を含んでいる」と主張する。
鉄筋ばかりでなく、コンクリート内の骨材が少なく「巨大な構造物のコンクリートとしては奇妙だ」と強度不足を指摘する声もある。
施工不良、材質不良がクローズアップされる中、土木学会内部からも「一般的に言っても、倒壊のプロセスの中で今後、圧接鉄筋が問題になるだろう」(長滝重義・東京工大教授)などと疑問が出されている。
倒れるはずのなかった大規模構造物が、なぜ倒壊したのか。予測を超えた地震力だけでは、安全対策すら計れない。不安は残されたままだ。
1995/5/9