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(8)日照を守る 外国人の一言 背中押す
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 二人の娘が使っている子ども部屋には、午後になると、やわらかな日差しが入ってくる。

 宝塚市の阪急・逆瀬川駅から徒歩約五分。大手ゼネコンに勤める中村勤さん(40)=同市野上一=ら二十世帯が暮らす「花川野上ハイツ」の裏山で、住宅の建設工事が間もなく始まる。当初の計画通りなら、子ども部屋への日差しは奪われるはずだった。が、計画変更が実現し、日照被害はかなり食い止められる。

 業者との交渉から裁判、そして和解へ。中村さんには、裁判に踏み切るきっかけになった、オーストラリア人女性の一言が、印象に残っている。

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 九五年八月、住民は迷っていた。

 計画では、ハイツ北側の裏山に、高さ最高七メートル、全長四十五メートルに及ぶ擁壁を設け、盛り土をした上で、二階建ての住宅を建設する。業者との話し合いが平行線をたどる中、県の宅地造成許可が下りた。着工は九月中旬と告げられた。

 手段は、工事差し止めを求める仮処分申請しか残っていなかった。しかし、建築基準法による日影規制は建築物が対象で、擁壁は規制を受けない。仕事柄、開発にかかわった経験がある中村さんも「言い分を通すのは無理だろう」と思っていた。

 「皆さん、あきらめずにやりましょうよ。黙っていては駄目ですよ」。非常勤で中学校の語学指導などを務めるリヨーニ・レイ・スティックランドさん(42)が、きっぱりと促したのは、こうした中で開かれた住民集会だった。

 裁判の準備は短期間で進み、九月十一日、申し立てにこぎつけた。団長はレイさんが引き受けた。

 業者は「もともと裏山には木がうっそうと茂り、擁壁ができても日照被害の程度は変わらない」と主張。最大の争点になった。

 「とことんやれば何とかなる。しかし、私に任せきりでは駄目。あなた方が中心にならなければ」と担当の津田浩克弁護士は住民に念を押している。

 住民らは、土、日曜を利用して、植物図鑑を手に裏山に入った。既に一部の木は伐採されていたが、切り株から木の種類を特定、冬は日照を妨げない落葉樹が多いこともわかった。

 申し立てから二カ月後、決定が出た。「建築基準法の対象外だが、規制の趣旨、内容に照らしても、日照被害の程度は極めて深刻と言わざるを得ない」と、住民側主張を支持した。

 業者は異議申し立てをしたが、昨年四月に和解が成立。現在の地形を生かし、日照被害を軽減する住民側代替案が通った。

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 「和解できたのは、住民が『こんな開発なら認められる』という意思を示したからだ。住民が何が何でも工事に反対だったら、違う結果になっていただろう」と業者の役員は話す。

 レイさんは昨年四月、日本での十五年間の生活に終止符を打ち、オーストラリアに戻った。

 「いけないと思うことには絶対に黙っていてはいけない、としつけられた。日本は個人優先の国ではなく、グループ優先の国。正しいとは思っていても、周りに迷惑をかけると思うと踏み切れない面がある。でも、私の団長は名前だけで、皆さんが努力されました」

 ちゅうちょの末に踏み出した一歩が、大きな成果に結びついた。「やっただけの値打ちがあった」と住民は思っている。

1997/1/10
 

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