仕事納めの十二月二十七日夕。神戸市東灘区森南町三丁目の住民三人が、市の現地相談所に入った。待っていたのは、神戸市都市計画局の西尾力・森南地区担当課長ら。一室での協議は一時間半にわたった。
「今のまちづくり協議会から独立したい。新たな協議会設立の意思を市に伝えた。年末年始に住民の同意署名を集めなければ」。部屋から出てきた住民代表の一人は言い残すと、足早に相談所を後にした。
約三週間前の十二月八日、森南町一丁目は、「森南町・本山中町まちづくり協議会」から独立、独自の協議会をスタートさせている。三丁目が独立すると、区画整理が進む同地区(一六・七ヘクタール)は、三つの協議会が併存する形になる。
「住民の大多数の支持が確認され、設立総会が開かれれば、三丁目も前向きに対応せざるをえない」と、西尾課長は話した。
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昨年五月、市は計画修正案を住民に示した。震災前から街並みが整った住宅街に区画整理が必要なのか、との強い反発で、「減歩率は最大二・五%」とした。
これを受け、まちづくり協議会は、住民意識調査を実施した。しかし、協議継続、完全撤回、事業承認と意見は分かれた。半年間、市との協議は中断、協議会は混迷を続ける。
「市との合意を目指し、現行案をもとに協議を進める」。独立した一丁目の協議会が掲げたのは、事業を前提に協議するという方針だった。
同地区で次々に分かれるまちづくり協議会。現在、神戸市の区画整理、再開発事業地域にある協議会は五十七に上る。市は「住民合意を集約する場」とし、年間百万円を限度に活動費を助成、コンサルタントを派遣する。
しかし、その存在を明文化したものはない。震災前からある「まちづくり条例」に基づき、住民自ら解決策を探る協議会とは性格を異にする。市復興区画整理課の担当者は「協議会の認定は、街づくりの推進を掲げること、地域住民の大多数の支持を得ていることが基準」と話し、続けた。
「交渉窓口として認めるには、計画決定した事業を前に進める合意をまとめるのが大前提。事業の賛否を問う入り口論は既に過ぎた」。市にとって白紙撤回という意味の合意はあり得ないことを示している。
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市は年末、もとからあった「森南町・本山中町まちづくり協議会」に、運動方針を早急にまとめ、文書で提出するよう求めた。それまでは、交渉を中断する姿勢を明確にした。
西尾課長は「集会などで白紙撤回を求める役員もいる。会との協議で『合意を目指し協議を進める』との話は聞いているが、後戻りされては困る」と話す。
地区全世帯のうち、独立した森南町一丁目は約四割、同三丁目は二割弱。「独立を決めた地域を引き留めることはできない」と同協議会の広報担当、酒井好子さんは話しながらも、「東西を貫くコミュニティー道路など地区全体で考えるべき課題は多い」と指摘する。
協議会は別々の道を歩み始めた。森南町一丁目まちづくり協議会会長の奥井明さんもまた、苦しい胸の内を打ち明けた。
「反対の意見があることも分かっている。しかし、足踏みしていては前に進まない。一日でも早く皆に帰ってきてもらいたい。合意を急ぐというのではなく反対している人の意見を生かす道を探りたい」
1997/1/6