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社説 復興第二段階へ(上)被災者 みんなの「人間復興」めざそう
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 きょう、被災地は震災三年を迎えた。長かったのか、あっという間に過ぎたのか。感慨はさまざまだろうが、はっきり分かるのは、この先、まだ長く続く復興への道である。

 「八割」あるいは「九割」などと復興ぶりが語られる。しかし、神戸市の市民意識調査では「復興した」とする人がほぼ半数にとどまったことをみても、「復興半ば」が大方の実感ではないか。平均化した数値では見えない個別の困難が、被災地のあちこちに山積することを痛いほど知っているからだ。

 「早く戻って家を建てたい、というみんなの気持ちはピークに達している。余力をもって待っている人は少なく、今年が勝負の年と思う」

 千歳地区(神戸市須磨区)連合まちづくり協議会の鍋山嘉次会長の言葉ひとつとっても、険しさが伝わってくる。

 震災で焼けた千歳地区は、復興区画整理の対象地区のひとつである。現在、権利を持つ一人ひとりの新たな敷地を決める仮換地の段階だが、進ちょく率は昨年末で一〇%台。多くの住民が家の再建のめどを立てられないでいる。

 私たちにとって、四年目以降の道のりは、まだ遠くかすんで見える。

被災地からの問い

 震災復興に向けて、被災地に国や自治体から投じられた公費は三年間で十兆円近くに達する。しかし、その多くが都市インフラの復旧に注がれ、個人の救済につながる分野のウエートは低い。高齢者らへの生活再建支援金といった評価すべき施策も打ち出されたが、被災地の強い声に押された面が強かった。

 三年を経て、まちと人、さらに同じ被災者の間に広がる格差に、多くの人が納得できないでいる。巨額のお金を、もっとうまくみんなの生活再建につなげることはできないのかと思っている。

 阪神・淡路復興委員会の元特別顧問である後藤田正晴氏が先日、復興策は間違ってはいなかったものの、「開発復興」に片寄ったきらいがあることに悔いが残ると語っていた。被災地の疑問が的外れではないことを示すものだろう。

 インフラ、住宅、産業の緊急三カ年計画は三月末に終わる。続く復興の第二ステージを思い描いてみよう。

 希望する公営住宅に当たらない仮設入居者は七千百世帯ある。募集割れ住宅を中心にした個別のあっせんは簡単ではなさそうだし、痴ほう性老人など難しい課題が出てきている。後回しになっていた県外避難者らへの住宅供給も急がねばならない。恒久住宅での新たなコミュニティーづくりも切実である。

 まちづくりはどうか。区画整理が進むにつれて、震災空地など次の問題が浮上している。復興再開発では、事業の成否を左右する保留床処分で展望を切り開かなければならない。産業や雇用対策は、景気低迷の出口がなかなか見えない中で効果的な施策に迫られる。

 こうしてみると、いろんな課題が新たな展開を見せ、これまでの延長ではすまないことは明らかである。国、自治体のより踏み込んだ、個別対応がいる。生活再建で二極化がさらに進むようなことがあれば、復興はおぼつかないからだ。

知恵と力の結集を

 この三年、震災で肉親を失い、家や仕事をなくした多くの人が痛手から立ち直ろうと懸命の努力を続けてきた。被災地の内と外で、想像もつかないほどの自助努力の積み重ねがあったことを確認しておきたい。

 それでもなお、再建がかなわない人が一人でもいる以上、目を向け続けなければならない。まちに活気が戻っても、住む人が自立でき、将来に展望を持って暮らしていける状態にならないと本当の「復興」とはいえない。時間の推移の中でどんな支援が必要なのか、さらに工夫をこらしていくべき時である。

 まず、これまでの取り組みをきっちり検証することだ。公営住宅のような被災者の希望と施策の間のミスマッチがなぜ生じたのか、振り返る必要がある。そのうえで、思い切った発想の切り替えや新たな手だてがあっていい。

 震災三年を前に、市民とNGOの「防災」国際フォーラム実行委員会は、復興計画の単線型から複線型への修正を、阪神・淡路まちづくり支援機構は、当分の間、仮設住宅を簡易公営住宅として存続させる案などを提言した。こうした住民や専門家の側からの視点も柔軟に検討する姿勢がほしい。できるだけ多くの知恵を寄せ合うことだ。

 「お互い様で助け合うのが神戸人の知恵であります。あったはずです」

 本紙の被災者アンケートにこう記した人がいた。四年目に入る復興のなかで、心にとどめておきたい言葉である。

1998/1/17
 

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