約三千の非営利組織(NPO)があるといわれる米国・サンフランシスコ。活動は非営利デベロッパー(開発団体)、社会サービス団体など多分野にわたり、所得税免除、寄付金の税控除などの優遇措置が取られている。被災地で生まれた市民活動を発展させるヒントを探ろうと、「神戸復興塾」(小森星児塾長)のメンバーら十七人が、七月十四・二十一日に「サンフランシスコNPO視察旅行」を行った。”先進国”の実態は参加者にどう映ったのか。
同塾は、被災地救援、まちづくりにかかわる学者や専門家ら約三十人でつくり、神戸の将来や復興の具体策などを研究。公開講座、復興住宅での入居者事前交流会も開いている。
視察は市民運動に詳しい現地在住のフリーライター、岡部一明さんの案内で約十カ所を回った。
貧困層の多いテンダーロイン地区に、ひときわ目立つ、しゃれたデザインの五階建てアパート。
NPOの「アジア・ネイバーフッド・デザイン」が市や財団などから資金を集めて設計・建築し、管理まで行う低所得者向け住宅だ。玄関はオートロック。じゅうたん敷きの廊下が続き、一階には集会室兼図書室が設けられ、芝生の中庭もあった。
「目を見張った。NPOはプロだと痛感した」と参加した病院長の上田耕蔵さん。「徹底した周辺の生活実態調査も行い、地域に根ざした住宅をつくる。自立支援と地域を変えようという熱意があった」という。
サンフランシスコ市はここ十五年、低所得者向け住宅の開発と管理を同グループなどのNPOに任せている。
◆
元軍港を市がNPOセンターとして整備した「フォートメイソンセンター」。改修した軍用倉庫五棟などには、約五十のNPOが事務所を置き、催し場、小劇場、会議室などを備える。NPOが管理・運営し、賃料は月百四十ドル(約二万円)。
イタリア系アメリカ人の博物館、アフリカ系アメリカ人の博物館、障害者の作業所、環境ツアー企画団体など、あらゆるNPOが軒を連ね、催しなどを含め年間計六百団体が利用するという。
復興塾の田村太郎・多文化共生センター代表は「NPOが互いに接点を持てる貴重な場。家賃も安い。日本のNPOは自分たちの活動に埋没しがち。被災地にこんなセンターが必要だ」と強調する。
サンフランシスコ市の消防局員はこう説明した。「この街には六十の言語を話す人々が住む。災害が起これば、市は対応できない。NPOと協力した方が効率的だ」
田村さんは「日本の行政にも言ってほしい言葉。NPO自身が地域で責任を負うと認識し、ダイナミックに活動する必要がある。米国のNPOも自身の活動の評価や資金集めで悩んでおり、日本とそんなに大きな違いはない。日本もまず、一歩踏み出すことだ」と話している。
◆
市民が建てた図書館を運営する団体、日系三世が設立し日系高齢者のため食事会を行う団体、東南アジア系青少年の就業・就学支援をするセンター…。「活動する人は、元気で自信に満ちていた。NPOが制度的、経済的に確立しているからだろう」と視察団団長の大津俊雄・都市計画会社代表。「日本では行政がやることでも、NPOがやっていた。社会のシステムが異なるのでそのまま、まねるわけにいかないが、日本の市民や行政がどうあるべきか考えていきたい」と話している。
1998/8/17