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 家族を失った悲しみは、容易に癒(い)えるものではない。まして、亡くしたのが子どもや若者だと、残された人が、過ぎ行く時間に、いっそう悲しみを味わうのも無理はない◆去年の暮れ、神戸の西灘小の校門横に、太陽時計が設置された。大震災で亡くなった浅川亜希子さんの思い出にと、母・鈴子さんや知人の泉迪子さんが学校と協力して設置した◆アッコちゃんと呼ばれていた。とても活発な五年生だった。倒壊した自宅の下から救出されたが、クラッシュ症候群で、約三週間後に息を引き取る。「お母さん、泣いたらあかんで。私、大丈夫やから」。病院で、そう鈴子さんを逆に励ました言葉が最後になった◆その後、なにをする気にもなれなかった鈴子さんは、家族を亡くした人たちの集まりに、ふと顔を出して、泉さんに出会う。泉さんも震災からしばらくのちに、夫を亡くしていた。「最初は、みんな能面みたいな顔をしてました」と泉さんは言う。「でも少しずつ、悲しみが分かち合えるようになり、生気が戻ってきました」◆アッコちゃんとの別れを語った鈴子さんの話は、神戸市内の小学校で使われている副読本に載っている。市立荒田小の佐渡正子先生は四年生の授業で使った。読みながら涙を流した子がいた。教室が静まり返った。「りっぱな感想より、それだけでも十分。そう思いました」。佐渡先生は電話の向こうで、そう言った◆悲しみは悲しみのままでいい。しかし、太陽時計が進む新しい時間のように、悲しみの中から次々に生まれる優しさの芽を、大切に、と祈る。

2000/1/17
 

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