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 おばあさんの「異変」に気づいたのは、隣の部屋に住む人だった。

 七十歳に近く、一人ぐらし。前日、体調の悪さを口にしていたので、気になってドアをノックしたが、応答がない。明かりはついたままだ。

 そう知らせを受けた高齢世帯支援員がファイルをくると、連絡先は空欄になっている。本人が仕事に出ていて、入居以来、まだ十分な話が交わせていなかった。といって、無断で内部を調べるわけにはいかない。

 幸いだったのは、警察が緊急時の連絡先を聞いていたことだ。カギを持って駆けつけた身内の人が部屋に入ってみると、布団の中で意識を失っているおばあさんの姿があった。

 昨年、神戸市の復興住宅団地であった話である。

 おばあさんは、すぐに市内の病院に入院した。支援の制度とコミュニティーが連携した見守り活動が、かろうじて機能できた例といえるだろう。

 最悪の事態は免れたとはいえ、いくつかの疑問や課題が浮かんでくる。

 高齢世帯支援員は、復興住宅に一人で暮らす六十五歳以上の人を主な対象にするが、相手の事情などで見守りの網の目から漏れる場合がでてくる。それを、どう防げばいいのか。

 いわば命を守るような活動のなかで、プライバシーの問題と、関係者間の情報のやり取り、共有という問題を、どう兼ねあわせればいいのか。

 こうした点の論議をみんなで深め、教訓として、今後の取り組みに生かしていく必要がある。

 被災地で続く見守り活動で、より効果的な対応を図るためだけではない。それは、目前の超高齢社会を少しでも安全で、安心できる世の中にすることにつながっていくはずだ。

独居死を繰り返すな

 きょう十七日、阪神・淡路大震災から、ちょうど六年になる。被災の厳しさのシンボルともいえた仮設住宅は一年前に完全解消し、いま、復興公営住宅での暮らしが根づきつつある。

 しかし、これで生活再建が成ったという感じは薄い。「孤独死」あるいは「独居死」と呼ばれる事態が、恒久的な住まいに落ち着いた後も、なくならないことが一つの要因だろう。

 神戸市の調べでは、市営の復興住宅に一人で住み、だれにもみとられずに亡くなった人が昨年四・十一月の間に二十七人を数える。入居が始まった九八年度以降、計七十九人に達した。

 県営、借り上げ住宅を含めた警察サイドの調査では、昨年だけで四十五人という数字もある。

 いうまでもなく、復興住宅の高齢化が背景にある。神戸では、六十五歳以上の割合が三二%になり、一般の市営住宅を一〇ポイントも上回る。ほぼ三軒に一軒が単身高齢世帯だ。

 まさに、超高齢社会を被災地が先取りした形である。

 「震災前からあった現象」と、さめた声を聞くことがある。しかし、以前に比べて増えた、減っただけが問題なのではあるまい。

 なにより、人間の尊厳を損なうような死は、あってはならないのだ。独居死に対する人々の関心の根に、人が粗末に扱われるような社会であっては困る、という懸念を読み取りたい。

 仮に、そうした死が一人であったとしても、重大に受け止めて、手だてを尽くすべきである。

 五千人を超えるお年寄りが復興住宅に一人で暮らす神戸市は、すでにいくつかの対応策を講じている。先の高齢世帯支援員のほか、生活援助員、復興相談員などである。

 さらに今年度から二年間の事業として、一般地域に活動対象を広げた見守りサポーターを配置した。

 十分な人数とはいえないにしても、最大の被災地の積極的な姿勢は評価できるだろう。問題は、これらのうち生活援助員を除いて、すべてが震災後の特定施策であることだ。

 いまの見守り体制を一般的なシステムにどう引き継いでいくか。市にとって、きわめて大きな課題といえる。

地域の力を高めたい

 忘れてならないのは、被災地で日々、続いている取り組みから、いろんなヒントを見つける努力である。

 支援員のほかにホームヘルパー、給食サービスなどを受ける高齢者がいる。民生委員や友愛ボランティアの訪問を加えて、重なり合う網の目の連携を強め、もっと手厚い見守りにつなぐことはできないか。

 水道の使用状況のチェック、部屋に設置した熱センサーなど、機器を用いた見守りに工夫の余地も探りたい。

 一番のポイントは、コミュニティーの力をどう高めるかである。冒頭の事例からも分かることだ。

 そのためには、地域福祉の部署と、自治会活動を所管する部署が、タテ割りの対応をしていたのでは困る。

 手がかりは、さまざまある。要は、被災自治体が先行している経験を、新たなシステムづくりに十分、反映させることだ。それでこそ、復興住宅の現場で汗を流すスタッフの苦労や、近隣の配慮が生きることになる。

 人間への視線を基本に置いた見守り体制をつくりあげ、発信する。震災七年目に入る被災地で、最重要テーマのなかに加えておきたい。

2001/1/17
 

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