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 人間の記憶というものは、時とともに、ぼやけていくが、そのかけらが沈潜して、やがて本当の「記憶」を醸成することもある◆被災した詩人安水稔和さんの三冊目の震災詩集「届く言葉」(編集工房ノア)を読むうちに、わが街の「今」を歩きたくなった。裏通りに一歩入ると、あちこち更地が残っている。その光景に多くの記憶が呼び覚まされる◆安水さんの詩は、小さな更地のように、静かに“存在”を訴えかけてくる。「忘れられないことばかり。でも。/忘れないといけないことばかり。でも。/忘れかけているんです。わたし。/忘れられかけているんです。わたしたち。」。この「でも」という題の詩にこめられた意味は大きい◆「戦争、原爆、ミナマタ、環境汚染、原発、わたしたちの命をおびやかすような事について考えた時、この詩は震災から離れても言語表現として成り立っていると思う」。安水さんは講演で、そう語った。そして、残った者は「生きること」を考えるのでなく、「生きているということ」について考えるべきだという◆大震災の後に続く道程で、わたしたちがすべきことは、単なる外面の復興でなく、文明の誤った部分から抜け出し、存在に値する進化をとげること。そんな詩人のささやきが聞こえるようだ◆その言葉が世界に届くとき、大震災は未来への確かな「記憶」になる。「これはいつかあったこと。これはいつかあること。/だからよく記憶すること。だから繰り返し記憶すること。/このさき わたしたちが生きのびるために。」(「これは」)。

2001/1/17
 

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