等高線ごとに色分けした地形図が、机の上に広げられている。生徒らは、主要道路を赤線でなぞり、各地区の避難所に赤い印をつけていく。
兵庫県宍粟郡山崎町立山崎西中学校。一年生三クラスで、年間を通じて毎週一時間、繰り広げられている授業の一場面だ。
町を分断するように山崎断層が横切る。中国自動車道に沿って、兵庫県南部から岡山県北部に伸びる全長約八十キロ、六本の活断層の帯だ。この断層が動いた大規模地震は、八六八年以降、起きていない。今、西日本で最も「要注意」とされる。
「まず、地形を知るところから始めています」。水口正己教諭(43)が授業の意味をそう説明する。活断層の上にある町で生活する限り、将来、必ず起きる地震と向き合わざるを得ない。それを実感させるためだ。
山崎断層地震が起きた場合、県の被害予測では、同町の死者は最悪で四百八十人、全壊建物は約八千百戸に及ぶ。
二〇〇〇年五月、町立防災センターが完成した。通信司令室など最新式の機器に加え、避難所としても活用できる。住民らでつくる自主防災組織は現在、八十五団体。全住民をカバーしている。同センターの西山政男館長(62)は「防災意識は確実に高まっている」と話す。
だが、山崎断層は、いつ動いてもおかしくない半面、いつ動くか分からない。警戒体制を維持してゆくのは容易でない。
住宅の耐震強化を促すため、県が実施する無料耐震診断。初年度は同町内で六十九件だった申請は、今年度二十七件(十月末現在)にとどまった。「まさか減るとは思わなかった」と西山館長。
同様の焦りは県にも広がる。昨年八・九月に実施した県民意識調査では「十年以内に大地震が起きる」と答えた人は、全体の四割弱。地域別に見ると、西播磨で約六割となったものの、神戸では最低の三割以下だった。
防災教育をスタートしてから二年目。山崎町は今後も毎年、全中学校で防災授業を続けることを決めた。地域で育つ子どもたち全員に、地震や生き延びるための手段を知ってもらうためだ。
県教委の担当者の一人がこう話した。
「広い県内で温度差があるのは事実。だが、難しくてもやるしかない。それは大震災の教訓を得た兵庫の義務でもある」
2001年に兵庫県が実施した県民意識調査で、地震に対する地域の意識の差が浮き彫りとなった。全体では県民の36・8%が「地震は起こる」と答えたが、神戸は28%で最低。50%を超えたのは西・中播磨の二地域のみだった。
(社会部・小日向 務、新谷 敏章)
=おわり=
2002/1/17