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 震災による避難所や仮設住宅での、長く、苦しい生活は、寄り添い、助け合って生きることの大切さを痛感させた。そこからコレクティブハウジングという新しい住まいの形が生まれた。全国に先駆けて神戸、尼崎、宝塚市の復興住宅の十カ所で展開される共同居住は、高齢化社会に何を提案してきたか。この都市モデルを検証し、全国へ発信する責任がわたしたちにはある。

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 「ふれあい住宅」と呼ばれる共同居住型住居は、計三百四十一戸建設された。

 それぞれの住宅は、台所、ふろ、トイレを備える。それとは別に入居者が共同で使用できる台所付きリビングや和室などがあり、会食や団らん、交流の場など多目的に使うことができる。

 元は北欧で始まった居住スタイルだ。個人のプライバシーを保ちつつ、育児・家事の共同化や集まって暮らす楽しさ、安心感のある暮らしを求める人々が住まう。入居者の正しい理解と自立を前提にする。

 被災地では、仮設住宅で親しくなった人とも住める家として期待は大きかった。

 だが同時に、住居がハード面の供給に偏り、居住者が快適に過ごしていくための支援を欠いているとの指摘が、当初からあった。新しい住まい方をする住宅とは知らずに入居したり、ふれあいのイメージを持てないまま入居した人が少なくなかった。

原点を思い起こそう

 神戸市長田区の県営片山住宅を訪ねた。木造二階建て一棟。戸数六戸とこじんまりしており、二戸は空き家になっている。

 入居以来、世話役を務める近江弘子さん(68)は「いろいろあったが、やっと笑い話にできるようになった」と話す。

 居住者は近江さんのほか、八十六歳と七十五歳の女性、六十七歳の男性だ。近江さんは女性をおかあちゃん、おねえちゃんと呼ぶ。男性にも親しみを込め、はっきり言う。「ありがとうという感謝の気持ち。それがコレクティブで生きる基本」と言う。

 共同スペースの電気代、水道代、共同購読の新聞代など、共益費は一人月六千二百五十円。入居者にこれ以上の負担は求められない。照明ひとつにも気を遣う。

 近江さんは入居以来、住宅ぐるみで地域の自治会や老人会と積極的に交わり、夏休みは小学生を招いて食事会や親との反省会を開いてきた。地域の独居老人の安否確認にも今後、力を入れたいと考えている。

 だが、心配、不安も尽きない。

 空き家を募集しても、後から加わるとなじみにくいのか、入り手がなかなか見つからない。住宅内の高齢化が進み、老身介護が現実味を帯びる。住まいを維持・運営する負担が、世話役一人にかかる、といった問題もある。

 いずれも懸念されていたことであり、片山住宅だけの問題でない。だが、こうした問題が解決されない限り、ふれあい住宅は名ばかりのものになってしまわないか。

 コレクティブハウジングはなぜ、被災地で生まれたのか。その意味をもう一度思い起こしたい。

欠かせぬ評価と検証

 震災は、都市に放置されていた高齢者の姿をはっきりとみせた。サポートを必要とする、高齢の独り暮らしや夫婦だけの世帯が予測を超える速度で増えていた。

 高齢者だけでない。子育てに悩む若い母親も増えている。かつては家族や地域の触れ合いの中で自然にできたことが、いまはなかなかできない。そこに、多世代型共同住宅を求めるニーズがある。

 これまでの住宅政策に、福祉の視点と手法を組み込む必要がある。被災地が提起したのは、そのことだった。

 ふれあい住宅の課題でいえば、派遣される生活援助員の積極的な活用が検討されていい。補充入居にあたっては、行政は住宅の趣旨を事前によく説明し、体験入居などの制度を組み込むべきだ。住宅ソフトの提供には経験と知識を持つ民間団体もある。積極的に助言、協力を求めたらどうか。

 行政が、数ある公営住宅の一つといった考えでは、新しい住まい方は決して実りあるものに育っていくまい。

 被災地に倣って、長崎県や埼玉県でもコレクティブハウジングの取り組みが始まった。被災地からの提案が、他府県で実を結びつつあるとみていい。

 公営住宅は全国で必要戸数を満たした。これからは質が問われる時代だ。足元では復興住宅や神戸の市営住宅などで、さらに高齢化が進む。

 多様なニーズにこたえていくためにも、まず、ふれあい住宅できちんと答えを出してほしい。それには現状の評価と検証が欠かせない。震災から得た財産として未来へ引き継ぐ。そんな、気概がほしい。

2002/1/17
 

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