連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

  • 印刷

 神戸市灘区の琵琶町。JR六甲道駅の南部、東西に細長く延びるこの町で、六十一人のいのちが失われた。震災慰霊碑を建てようと町の人々が本腰を入れたのは去年の春◆遺族の同意をとることになって、手分けして取りかかった。これが予想以上に大変な作業だった。まず遺族の足取りが分からない。やっと居所が判明しても手紙に返事がない。こみいった事情がありそうだと感じても、プライバシーに深入りすることはできない◆震災と歳月がそれぞれの人生を変えていた。失われたいのちの尊さは同じでも、遺族の反応には微妙に差があった。両親と弟を失い、一人になった女性からは「名を刻むかどうかは町の人に任せたい」と連絡があった。まだ家族の死を受け入れられない。そうだとしても、不思議はない◆両親を失った男性は一度は「辞退したい」と拒んだが、やがて「二人の名を並べてくれるなら」と同意した。男女二児を亡くした母親は、震災当時と違う姓を碑に刻んでと希望した。そのつど、遺族の揺れる思い、平たんでない人生が、うかがえた◆これからも続く人生には、つらく、厳しいことも多かろう。しかし、いのちがつながる限り、「希望」が宿ると信じたい◆被災地全体ですでに約二百の慰霊碑が建った。このあらたな慰霊碑には、六十一人全員の名が刻まれる。満月と三日月を組み合わせたデザインは、永遠に続く月の満ち欠けに、人生を重ねた。「彼らを決して忘れない」。その思いとともに、生きる決意もこめられている。

2002/1/17
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • 28℃
  • 40%

  • 33℃
  • 25℃
  • 50%

  • 34℃
  • 28℃
  • 20%

  • 34℃
  • 27℃
  • 40%

お知らせ