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社説 大震災8年 残った復興課題 施策検証のための常設態勢とれ
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 六千四百人以上の命を奪った阪神・淡路大震災から、きょうで丸八年になる。

 あの日から私たちは、復興に向けて何を行い、どんな成果を上げてきたのか。はっきりした手ごたえが感じられるだろうか。震災から二、三年たったころ、もうひと頑張りという意味で「八割復興」という言葉が使われた。いま、それが九割や十割になったと言える人は、まずいないだろう。

 足踏み状態というより、共通のゴールが描けない不透明感が被災地を覆っている。十年をひと区切りとする震災復興の節目まで、あと二年。残された課題を整理し、その先を見据えた取り組みが必要だ。

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 地震から半年後の一九九五年七月末、兵庫県と神戸市は、それぞれ今後十年間にわたる復興計画を策定した。国の復興予算の概算要求に間に合わせるための突貫作業だった。当初描いた十年後の姿は、いくつかの局面で軌道修正を迫られている。

 長引く不況が、被災地経済の足を引っ張っているからだ。いったんは震災から立ち直った店舗や工場が、努力の甲斐なく倒産していく。新しいビルは建ったが、進出企業が少ない中でスペースの供給過剰となり、市街地のあちこちで空き室が目立つ。

 震災後しばらくは、住宅の確保が最優先とされ、大量の復興住宅が建てられた。その結果、仮設住宅は早期に解消したが、今度は大量の住宅ストックをどう管理していくかなど、新たな課題が浮上している。

 兵庫県は昨年暮れ、過去七年間の事業成果を検討し、残り三カ年で重点的に取り組むべき事柄をまとめた「復興計画最終三カ年推進プログラム」を策定した。

 その二年前、後期五カ年推進プログラムをつくる際には、国内外から四十人近い研究者を招き、大規模な国際総合検証会議が開かれたが、一般市民の目には分かりにくかった。今回の三カ年プログラムは、被災地に精通した研究者やNPO代表の意見を聞きながら、二百八十八の具体事業を絞り込んだ。目新しい新規施策はないものの、〇五年までに最低限これだけはやる、と内外に示した意欲は評価できる。

現状把握は十分か

 とはいえ、検証に必要なデータが十分にそろっていたのか疑問が残る。そのひとつが、災害復興公営住宅の現状把握だ。

 復興住宅については、以前から単身高齢者の比率の高さや、コミュニティー活動の難しさが問題になっていた。行政は、生活援助員(LSA)や高齢世帯生活援助員(SCS)など、マンパワーの見守り施策を展開し、三カ年プログラムにも、その活動強化が盛り込まれている。

 しかし、入居者の今のニーズはなにか▽支援者からみてケアのポイントはどこか▽建物の設計や共用スペースの運用状況が、コミュニティー形成とどう関連しているか・などのデータは、これまでなかった。

 兵庫県は今年度、国の緊急雇用対策の財源を使って調査員を確保し、復興住宅についての本格的な調査を行っている。約三万世帯の入居者へのアンケートや団地周辺の環境調査、自治会リーダーと支援者への聞き取りなど、関連づけて分析すれば、効果的なケアの手法やコミュニティー活動を促進する住宅設計などが明らかになるだろう。

 結果の公表が待たれるが、もっと早い段階でこのような調査をしていれば、三カ年プログラムへの反映はもちろん、住宅建設の最中にもいろいろと工夫できたのではないか。その意味では、五年や三年といった区切りごとの検証だけでなく、常に現場の声を吸い上げて改善が加えることができる恒常的な仕組みが必要だ。

被災地から伝える

 これまでの復興施策は、数値目標の達成を焦るあまり、施策の関連付けや軌道修正に積極的ではなかった。今後は、硬直性やセクショナリズムから脱して、柔軟かつ横断的な体制で臨む必要がある。

 また、復興住宅の支援策など三カ年プログラムに盛り込まれた事業の多くが、阪神・淡路大震災復興基金を財源にしていることを、重く受け止めたい。復興計画と同じく、同基金も〇五年で終了する。その後の対応を、行政だけでなく企業や市民も知恵を出し合い、検討しなければならない。

 被災地の外への発信も大切だ。

 今年は、生活再建支援法の見直し時期にあたっている。「個人補償はしない」という国の壁を破ることができるかどうか、被災地からの政策提言が欠かせない。防災や減災の知識を全国に普及させ、人材を育てることも、私たちの使命である。

 被災地で芽生えた市民活動のなかで、コミュニティー・ビジネスやまちづくり協議会などは、他地域にも広がりつつある。そんな芽を探し、育てることも重要だ。

2003/1/17
 

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