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 毎年、公園でオカリナを吹く人がいる。一月十七日午前五時四十六分。娘を亡くした夫婦はいつも仏壇の前で細く長い笛の音に聞き入るという。今年も調べが届く窓に明かりがついていた。

 八年。つらさ、悔しさは消えない。がれきを抜け、猛火に追われて集まった公園に今、ろうそくの灯が揺れる。鎮魂のその数、六千四百三十三。

 昼。東部新都心で開かれた兵庫県など主催の阪神・淡路大震災追悼のつどい。芦屋市浜芦屋町に住む米津勝之さん(42)が代表遺族としてあいさつした。長男漢之(くにゆき)ちゃん=当時(7つ)=と長女深理(みり)ちゃん=同(5つ)=を亡くした。八年の間に生まれた英(はんな)ちゃん(5つ)と生後十一カ月の凛(りん)ちゃんに兄と姉のことを伝えたい。悲しみを知って心の豊かな人間になってほしい。

 震災体験の有無、軽重。人々の間に「壁」がある。「壁を越える取り組みを続けたい」。米津さんは誓いを静かに語った。

 神戸大学。そこに、亡き息子の体温が残る。

 正午前、広島市の加藤律子さん(54)は、長男の貴光さん=同(21)=が通った学びやの慰霊碑を目指した。花束を手に、いつもの年と同じように。

 国連で働くことを夢見ていた。一人っ子。広島を離れ、西宮市で新生活を始めることになった入学前、律子さんにあてた手紙に、こうつづった。

 「親愛なる母上様。あなたの優しく、温かく、強い愛を感じなかったことはありませんでした」

 母はいつも、その手紙を持ち歩いた。息子の遺体が安置された小学校でも、手紙を開いた。「遺書みたい」。涙が止まらなかった。

 八年。年を重ね、心の空白は広がる。それでも、手紙が支えてくれた。友が語る息子の姿に、生きた証しを感じ取った。今、思いを語る。「時の流れに沿えず、立ち止まる人がいる。どうぞ忘れないで」。

 鄭光均(ジヨン カンギユン)さん(57)=兵庫県加古郡播磨町=が奏でるオカリナの音色は夕刻まで、神戸のどこかで流れ続ける。

2003/1/17
 

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