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 もう八年もたった。「あの日」からの時間の長さをいちばん痛感するのは、子どもたちの成長に気づいたときだ◆震災を記した本の中でも、神戸市兵庫区で被災した郭早苗さんの「宙を舞う」(ビレッジプレス)は、最も印象に残った一冊だ。ケミカルシューズ業界で失意のうちに亡くなった在日一世の父。靴底加工の内職で一家を支えた母。激震でよみがえった震災前の記憶を、被災日記と交錯させながら描く◆揺れの瞬間に「私の過去が飛び散って砕け、私の現在が浮遊した」と感じる。三人の子を抱えて転々とした避難生活、不安のあまりアルコールにおぼれた日々の中で、早苗さんは「自分という存在」の意味を問い続けた◆「私は人生を生き直さねばならなくなった。それはまた過ぎ去った日々とは非連続の、別方向の未来へ私を向かわせる好機ともなるのかも知れないのだった」と自分に言い聞かせる。最後は、震災後に生まれた子を含めて四人の子どもに視線を注いで、筆を置く◆垂水区在住の元大学教授、大森亮尚(あきひさ)さんは著書「悲のフォークロア」(東方出版)に、息子とともにがれきの街を車で走り回った記憶を書いた。息子たちは声もなく惨状を凝視していたという。「あえて私たち大人がこの光景に口をはさみ、解説する必要はなかろう。二十一世紀は彼らの手にある。この光景から彼らの世紀が出発すればいい」◆止まったままの時間もある。だからこそ、確実に進んでいる時間が心強い。記憶を胸に成長した小学生が、もう新成人なのだ。

2003/1/17
 

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