脱線十六本、落橋三十二カ所。乗客の死者はゼロだった。
阪神・淡路大震災直後のJRと私鉄。新幹線は始発前で、通勤ラッシュにはまだ一時間ほどあった。
白昼の巨大地震なら-。
鉄道総合技術研究所(東京)で、村田修・構造物技術研究部長に尋ねてみた。
「走行中に脱線したとして、列車がどう動くか、条件が複雑で解析は不可能」
鉄道各社に聞いたが、同じだった。
昨年、政府の中央防災会議の専門調査会が発表した東南海、南海地震の被害想定も、鉄道については、「運行中列車の脱線」「東海道新幹線が一定期間利用困難」とするにとどまった。
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現場の対策はどうか。
「早期地震検知警報システム」(ユレダス)。検知器が初期微動(P波)をとらえ、主要動(S波)の到達までに送電を停止、自動的に運行を止める仕組みだ。
一九九二年、東海道新幹線で導入された。JR西日本管内では震災翌年、山陽新幹線の全区間で稼働した。しかし、震源地が近く、P波とS波の時間差が短ければ、本格的な揺れまでに高速の列車を止めるのは無理。限界がある。
しかも、自動停止は新幹線だけ。電化されていない区間もある在来線は、無線連絡を受けた運転士が停車させる。
私鉄にも「人の手」が介在する。「橋上などで自動的に止まればかえって危険」(阪神)「避難誘導も考える必要があり、止める場所はケースバイケース」(阪急)という。
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「地震対策の基本は耐震補強」と、国土交通省の村上大策・鉄道防災対策官。
JR姫路駅(姫路市)では、高架式の新幹線の駅で補強工事が続く。昨年末、団体待合室部分が終わった。九本の柱に、鉄筋が巻かれたり、鉄板が打ち付けられた。ここに構内の店舗が移転する。
同省によると、新幹線で補強が必要な高架橋柱は約六万八千本。うち施工済みは約半数だ。私鉄を含む在来線も、約四万本のうち約一万七千本が未施工という。
工事を困難にしているのが、高架下の店舗利用だ。「移転の問題もあり、改装などの機会をみて」とJR西日本。
姫路駅は、在来線の高架化に合わせているからこそ、工事が進む。県内では新神戸、西明石、垂水駅などが残る。
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昨年十月。神戸で開かれた近畿二府七県合同の防災訓練に、鉄道事業者九社が参加した。これほど多くの事業者が一堂に会した実践的訓練は、兵庫県内では前例がない。
「列車災害は、一カ所で大きな人的被害が出る可能性が高い」と県防災企画課。一昨年、地域防災計画に初めて「大規模事故災害対策」を加えた。鉄道各社との具体的な連携はまだ始まったばかりだ。
白昼の巨大地震なら-。
「最悪の事態」を誰も想定できないまま、列車は今日も走る。
2004/1/13