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社説 大震災10年へ(3)熱意をつなぐ コミュニティーの絆を紡ぐため
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小学校校庭での「コミュニティ交流事業」=宝塚第一小学校
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小学校校庭での「コミュニティ交流事業」=宝塚第一小学校

小学校校庭での「コミュニティ交流事業」=宝塚第一小学校

小学校校庭での「コミュニティ交流事業」=宝塚第一小学校

 九年前の今日のことを、海外のメディアは、被害の大きさとともに被災者の節度ある態度を驚嘆しながら伝えた。「略奪や暴動は見られず、電話や給水の順番を辛抱強く待っている」と。

 いたわり合い、助け合う姿を、一部の社会学者らは「震災ユートピア」と呼んだ。私たちはあらためてコミュニティーづくりの大切さを学んだ。風化が懸念される中、当時の思いを失いたくない。

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 新しいコミュニティーをどうつくるか。その難題に直面したのが、住み慣れた地域を離れ、仮設住宅や復興住宅に移り住んだ人たちだった。ふれあい喫茶などの催しが盛んに開かれ、それを支えるボランティア活動が各地で生まれた。

 一方で、被害が比較的小さかった地域でも、活発な取り組みがあったことに目を向けておきたい。

 宝塚市は一九九〇年代初めからコミュニティー政策を進めていたが、小学校区単位の「コミュニティ(まちづくり協議会)」づくりが一気に進んだのは、震災後だ。

 宝塚第一小学校区(会員数約一万七千人)の場合、エリアが広く調整が難航していたが、以前から盆踊り大会を企画してきた女性たちが引っ張るかたちで、震災の年の暮れに協議会の結成にこぎつけた。小学校での盆踊りやもちつき大会を軸に、男性料理教室やスタンプラリー、エコマネーの導入など、積極的に事業を行っている。

 実績が認められ、九七年春から小学校の空き教室を拠点にできた。広く地域のサークルにも利用してもらっている。池田小児童殺傷事件の後、学校関係者以外が校内に出入りすることの是非が問われたが、名札の着用などで折り合いをつけた。

夢中の時期を過ぎて

 しかし、無我夢中で“理想のコミュニティー”を模索してきた時期を過ぎ、年々、運営の苦労が増えているという。

 不況が続く中、人様の世話どころではない、という風潮が社会全体に強い。役員ともなれば土日の多くがつぶれ、その活動は手弁当だ。地縁自治会など既存組織との関係も難しくなってきた。校区内には、次々とマンションが建ち、地域の様相が大きく変わろうとしている。

 「そんな状況だからこそ、住民同士が知り合うきっかけとして校区コミュニティが大切だ」と三代目会長の藤田好茂さん。自身が、十年ほど前に越してきた新住民なので、男性や若い人の参加を促したいという。また、協議会結成の立役者でもある深澤歳子副会長は「震災には忘れたい記憶もあるが、忘れてはならない教訓もある。その一つが地域の絆(きずな)」と話す。

 宝塚市では二〇〇一年、全国でも先駆的なまちづくり基本条例と市民参加条例を制定。「コミュニティ」の次のステップとして、校区ごとに「まちづくり計画」を策定するよう呼びかけている。既にできた地区もあるが、藤田さんらは慎重な構えだ。

 「計画案など書こうと思えば一晩で書ける。しかし、だれが中心になり、どのように地域の将来像を検討するのか。その前作業に時間と手間をかける」

 計画づくりを、いま一度、コミュニティー意識を取り戻す契機にしたいという。

 この事例に限らず、一時は活発だったコミュニティーやまちづくりの活動に“息切れ”が目につき始めた。九年が過ぎた被災地で、気がかりな現象である。

 役員に負担が集中し、新たな人材が育ってこない。交流事業の助成の多くは、復興基金を財源としており、基金が無くなる十年目以降、活動はさらに厳しくなる。

再ネットワーク化へ

 いや応なく変わる地域の中で、住民同士をつなぐと同時に、熱意を未来につないでいけるかどうか。いまが正念場だ。

 兵庫県の県民生活審議会は昨年、「新しいつながりを求めて-生活の再ネットワーク化」という答申をまとめた。

 つながりが大事ということは、だれもが認めている。しかし現実には、地縁団体とNPOなどのテーマ型団体、あるいは非営利組織と企業との間には、相互の理解不足や対抗意識による“壁”がある。

 答申では、具体的な施策として地域プランナーの養成や中間支援組織づくり、地域団体の企画力の向上や事務局の強化を掲げた。これらを進める一方で、バラバラな支援施策の効率化など、行政の縦割りによる弊害を無くす作業も急ぎたい。

 持続的なコミュニティーをつくるには、地域の現状を良いことも悪いことも含めて明らかにし、縄張り意識を捨てて取り組む姿勢が大切だ。私たちは、その意義や手法を、震災体験から学んだはずである。あの日のユートピアを再び紡ぎ出そう。

2004/1/17
 

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