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 今年も、この詩集を読み返す。神戸・長田の詩人、安水稔和さんの「生きているということ」(編集工房ノア)である◆震災とその後の日々の被災者の意識の軌跡を、平明な言葉で刻んでいる。「無事でよかった/生きててよかった/いのちがあっただけもうけもんや/ほんまにそうおもた/あのとき死んでたらよかった/なんでわたしだけ助かったん/なんでこんなに苦しまなあかんの/ほんまにそうおもう」。これは震災の年の夏に発表された「ほんまに」という作品◆その年の秋に同人誌に出た「やっと」は、こんな詩だ。「咳(せき)ばらい/物音/ひとりみたい/食べてるかしら/訪ねてきた人がすぐ帰った/窓も戸も閉じたまま/お出かけかな/行く先はあるのかなあ/しばらく経(た)ってやっと/いるとわかった/ひとり息絶えて/いるとわかった」◆直後の激しい感情の起伏から、仮設住宅の孤独へと題材が移って、悲しみの質も違ってくる。そして、三年後の「ところで」という詩には、無力感さえ漂いだす。「ところで/変わったかしら/変わったでしょうねと/たずねられる/変わった/変わらない/わからないと/つぶやく」◆戦争やテロで世の中が殺伐としている。デフレも深刻だ。みんなが自分の暮らしを守るのに懸命で、しんどいことは忘れようとする。だから、取り残される人が増えていく。めまぐるしく移り変わる街で、おきざりになる◆本当に「生きててよかった」のか。被災者の魂に寄り添う一冊の詩集が、今年も静かに問いかけてくる。

2004/1/17
 

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