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(2)低所得 基盤崩れ拡大した格差
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 神戸市中央区にある復興住宅。宮野喜則さん(68)は、2LDKの一室で一日を過ごす。外出は買い物ぐらいだ。

 「食って生きとるだけ。なんの楽しみもないな」。ぽつりと言った。

 独り暮らし。無職。年金の七万四千円と生活保護から家賃を払い、毎月、借金を三万円ずつ返済している。

 同市灘区の分譲マンションで、妻と一人娘と暮らしていた。個人営業で軽トラック一台を持ち、中小企業の製品を全国各地に運ぶ。売り上げは月に五十-六十万円。半分はガソリン代など経費に消えたが、三人で生活するには十分だった。

 震災で歯車が狂った。マンションは全壊、ローンが六百万円残った。営業車もつぶれた。借金で再び車を買ったが、市街地から離れた仮設住宅に移ったことで、得意先を失った。生活費にと、初めて消費者金融で借金。返済のために別の業者から借りる。借金は三百五十万円にまで増え、自己破産の道を選ぶしかなかった。妻とは離婚した。

 その後、残った借金返済のため、また金を借りた。家賃を滞納して神戸市に訴えられ、住宅明け渡しを求める判決を受けた。友人から金を借り、滞納分はなんとか返済し、瀬戸際で復興住宅にとどまることができた。

 神戸市による復興住宅の家賃滞納訴訟は、二〇〇三年度までに計五百四十五件に達する。

    ◆

 復興住宅の入居者の約八割は、収入が二百万円に満たない。復興住宅を日本の近い将来の象徴とみる評論家の内橋克人さんは、震災で所得の低い人が一層低くなり、「敗者復活」のチャンスもなかったと、分析する。

 少子高齢化で総人口が減り、国民は貧富の二階層に分かれ、格差が拡大していくと警告を発してきた内橋さん。被災地では、格差拡大の傾向が全国より早く表れ、「弱いものほど弱くなった。復興住宅に住む人たちの話を他人事ではなく、明日はわが身とみなければ」と指摘する。

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 ハローワークに通ったが、六十歳を過ぎると、仕事はなかなか見つからないとこぼす宮野さん。「貯金をはたいて買った家と仕事を失ったダメージは大きかった」。

 震災からの十年間、はい上がることができないでいる。

メモ

世帯の年収

500万以上      0.4%
400~500万未満  2.0%
300~400万未満  2.9%
200~300万未満 15.4%
100~200万未満 42.4%
100万未満     36.9%
(神戸新聞・神戸大学合同アンケート調査より)

 復興住宅に住む世帯の年収は、100万円以上200万円未満が最多で、4割を超えた。100万円未満という世帯も3分の1以上にのぼっている。300万円未満の世帯は合計で94.7%を占め、厳しい生活が被災者にのしかかる。

2004/12/18
 

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